アマランタインに種実無し/05/01 Fun With Pestilence-1
第五行
Fun With Pestilence
鼠の歌
Name: Azalea
Clan: Tremere
Sex: Female
Disciplines: Auspex (1), Dominate (1), Thaumaturgy (3)
Feats:
-Combat: Unarmed (1), Melee (1), Ranged (3), Defense (2)
-Covert: Lockpicking (3), Sneaking (4), Hacking (4), Inspection (3), Research (3)
-Mental: Haggle (2), Intimidate (2), Persuasion (2), Seduction (4)
-Soak: Bashing (1), Lethal (0), Aggravated (0)
Equipment: Thirtyeight, Utica M37, Knife, Light clothing
Humanity: 10
Masquerade: 5
「い、厭です」
その言葉を紡ぐのに、Azaleaは頭から爪先まで、全身に気力を漲らせなければならなかった。
Los AngelsのDowntown、少し前まで住んでいたこの街に懐かしむ暇もなく、AzaleaはVenture Towerという場所を訪ねなければならなかった。
Venture Towerとは、LaCroix財団の所有する高層ビルだ。かつてはコールガールであり、その後もレストランのウェイトレスでしかなかったAzaleaには、もちろん馴染みの無い場所である。
訪ね人はPrinceことLaCroixで、どうやらLaCroixは人間社会では、LaCroix財団の社長として生きているらしい。人間として。少なくとも受付の警備員は、LaCroixの正体を知らないように見えた。
Azaleaの報告、つまりSanta MonicaでSabbatのアジトを壊滅させたという旨を聞いたLaCroixは頷いた。そして労うでもなく、こう切り出した。
「Elizabeth Daneという血族に関わる積荷を載せた船が、最近港に入ってきた。その船にはAnkaranの石棺と呼ばれる積荷を載せている可能性がある、という情報が入っている。そこできみに……」
だから、である。
「厭です」
なのだ。
だがLaCroixは、まるでAzaleaを口の利かぬ人形とでもみなしているかのように、言葉を続ける。
「きみに頼みたいことは3つだ。ひとつ、Elizabeth Daneの探索はしてほしいが、Ankaranの石棺は開けるな。ふたつ、警察に動きを気取られるな。みっつ、以上のことに気を付けたうえでDaneで運ばれていた主な積荷について調べろ」
「わ、わたしは、あなたの命令通りにSanta MonicaのSabbatのアジトを爆破しました。それで、終わりなはずです」
LaCroixの言葉が途切れるタイミングを見計らって、Azaleaは言った。
じろりとLaCroixが睨んでくる。彼の傍に控える大男も。
「成る程、きみの言いたいことは解る」とLaCorixは来た。「で、やってくれるね?」
「厭です」
Azaleaは泣きそうになりながらも、言い返した。
「やってくれるね?」
「はい、喜んで」
その言葉が己の口から発せられたということが、Azaleaには信じられなかった。
Azaleaは吸血鬼の血力を知っていた。精神に関するものについては、自分でもTranceという形で行使することができたし、LilyやJeanetteの血力によって精神を操作されかけたこともあった。
だからLaCroixが血力で従わせてくるのは解っていた。だから警戒していた。
それなのに、抗えなかった。自分の口が動いたことさえ気づかなかった。
LillyやJeanetteとは比べ物にならない、Azaleaでさえ抗えないほどの強力な血力だった。
夜風が冷たい。
AzaleaはVenture Towerを降りて、Downtownの街並みを眺めながら歩いていた。懐かしいL. A.のDowntownに来て、溢れるのは涙ばかりだ。
Prince、LaCroixに命令を受けたことで、Azaleaは安堵している自分に気付いた。
命令されているうちは、その通りに動けばいい。そのことに安堵感を受けたのだ。
Downtownにやってくる前、Azaleaは、Santa Monicaのじぶんのアパートで、Arthurに出会った。
吸血鬼になったばかりの頃は、Arthurにまた巡り合ったとすれば、それは一種運命的なもので、彼がAzaleaのことをやはり愛してくれる。いままでの生活に戻れる。そんなふうに思っていた。
だがArthurを目の前にして、そんな幻想はやはり幻想だと感じた。
ArthurがAzaleaを拒絶したわけではない。彼は、白い肌になったAzaleaのことを受け入れようとしていた。
変わったのはAzaleaのほうだ。そのとき飢餓状態にあったAzaleaには、健康な成人であるArthurのことがとても美味しそうに見えた。血を吸う己を止められなかった。
嬉しかった。彼がまだAzaleaを覚えていたから。だから血力で記憶を消した。
嬉しかった。彼がAzaleaを見つけてくれたから。だからもう見つけられないようにした。
今頃は、もうじぶんがなぜSanta Monicaに行ったか、などということも忘れてしまっただろう。Azaleaのことも。完全に。
そしてAzaleaは目的を失った。生きていく目的を。LaCroixの命令を聞くだけの駒になるのは、だからある意味ではありがたいことではあった。嬉しくはないし、できれば拒絶したいことだが、いざその立場になれば、ただただ目的に向かって動いていくだけで良いのだから。
Azaleaは歩みを止めた。目の前には二階建ての家屋。緑色のドアの上にはライトで照らされた看板があり、『Last Round』とある。バーだ。
LaCroixに船の探索を頼まれたのに、このバーに来たのは、べつに酒を一杯引っかけて気分を高揚させよう、というわけではなかった。
LaCroixは、船に向かう前にNine Rodriguezなる人物に会え、と言った。
「Nine Rodriguezという男は力任せな乱暴者だが、あれに心酔している者も多い。きみに接触してきたということは、あれにも何か狙いがあるのだろう」
だから船に向かう前に、彼の意図を探り出してくれ、というのがLaCroixの依頼であった。
Nine Rodriguez。その名は、LaCroixが言うように、Azaleaにとっては見知らぬものではなかった。というより、このDowntownに来た直後に出会っているのだ。だから彼の居場所は知っていた。
薄暗い雰囲気の、いかにも場末といった様相のバーカウンターに、Azaleaは近寄る。カウンターの中には太った男がグラスを磨いている。
「すいません。Rodoriguezさんは………」
と目的の人物であるNine Rodoriguezについて尋ねようとしたときである。
「あんた、Nineになんの用?」
という声が聞こえてきた。
声の方向を振り返れば、そこにはAzaleaと同じくらいの年齢の、赤髪の少女が立っていた。
「わたしは……」
「LaCroixの犬だろ」と赤毛の少女はAzaleaの言葉を遮って言う。「Sabbatに襲われたところをNineに助けられたっていう……、あんた、何しに来たの?」
「えっと………」
Azaleaは言葉に迷う。目の前の少女は、明らかに敵愾心剥き出しだ。どうやらNine Rodoriguezの縁者のようだが、LaCroixの命令で動いているAzaleaのことを快く思っていないらしい。
「さっさと出てってよ。NineはLaCroixの支配なんかは……」
「おい、五月蝿ぇぞ、Damsel」
その男の声は、二階から聞こえてきた。
重い足音とともに階段を降りてやってくる声の主は、がっしりとした身体つきの、短髪の男。
「Nine……」とDamselと呼ばれた赤毛の少女がすぐに言う。「べつに、なんでもない。上に戻っててよ」
しかしNine Rodoriguezはといえば、Damselのことを無視してAzaleaへと視線を向けた。そして口元を歪ませてこう言った。
「おいおい、ここは小学生が来るところじゃないぜ」
「小学生じゃない」
とAzaleaはすぐさま言い返す。
「小学生はみんなそうやって嘘を吐くんだよ」
「わたしは18歳だ」
「じゃあ3年後に出直しな。飲酒は21歳になってから、だ」とNineは大袈裟に肩を竦ませてから、親指で会談を示す。「まぁいい。話があるんなら、上に来い」
Azaleaは赤毛のDamselを一瞥する。彼女は不満そうな表情で唇を尖らせていたが、Azaleaのことを妨害する様子はない。階段を上がっていくNineを追って、二階へと上がった。
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