Ring-a-Ding-Ding!
敵機確認



「そこの美人のねえちゃん、用心棒は欲しくないか? 特別に100Capsで護衛してやるよ」
粗野そうな角刈りの男のそんな声に対し、KutoはBooneの肩を抱きしめて返す。
「間に合ってます」

Bounder Cityから丸2日、KutoたちはようやくNew Vegas地区に到着した。
第一印象は、聞いていたほど煌びやかな街ではないな、というものだった。荒れ果てた建物、薄汚れた服を着た人間、ときたま目にする諍い、どれもWastelandでは見慣れたもので、戦前の面影を残すといわれるNew Vegasとは思えず、Kutoは落胆した

そんなKutoの態度を見かねてか、Booneが言う。
ここはFreesideだ。Stripじゃない」
「Stripはもっとましなんですか?」

無論Kutoも、New Vegas地区が中枢のStripとFreesideに分かれており、戦前の様相を色濃く残しているのはStripの側であるということは知っている。しかしStripとFreesideは距離にすればほとんど離れておらず、Stripを囲うように存在しているFreesideがこの有様では、Stripのほうもたかが知れているというものだ。

「Freesideとはまったく違うと聞いている」
「そうだと良いんですけど………」Kutoは溜め息を吐く。
「なんだ、なにか楽しみにしていることでもあったのか」
カジノに行ってみたかったんですけど………。これじゃあ絶望的ですね。戦前のカジノっていったら、すごい煌びやかで、いろんなゲームがあって、素敵なところだって聞いていたので、すごく期待していたんですが」
「まぁ、行ってみないことにはわからん

Booneが珍しくKutoを励ますようなことを言ったので、Kutoは少しだけ元気を取り戻した。確かに彼の言うとおり、行ってみないとわからない。
それにKutoの目的はカジノだけではない。Platinum Chipの存在は忘れていない。

「ところで」とBooneがタイミングよく切り出してくる。「おまえの目的はいったいなんなんだ? カジノだけじゃないだろう」
知人がここにいるって聞いて、会いにきたんです」
嘘ではない。Kutoからすれば、Bennyなる縞のスーツの男は、人伝に聞いた知人だ。知り合いというわけではないが。
「Stripにいるのか?」
「と、聞いています。Topsっていうカジノの社員だって聞きました。Booneさん、知ってます?」
「カジノの名前は知らん」
「Booneさん、賭け事とか興味なさそうですもんね」

Bonneは否定も肯定もしなかった。
代わりに、彼は思い出したように「言い忘れていたが」と言った。「Freesideには金を持ってないと入れないぞ」
「入場チケットでも買うんですか?」
「そういうわけじゃないが、カジノで金を落とすような人間じゃなければ、入れん。2000Capsは持っていないと、客としては認められん」

Kutoは財布を取り出して、中に入っているCapを確認した。800Capsそこらしかない。適当な店で持ち物を換金しても、2000Capsには届かないだろう。

「裏口とかはないんでしょうか?」
「ゲートはひとつだけだ。NCRなら入れるルートも他にあるが、一般人はゲートから入るしか手はない。偽造パスポートもあるらしいが……、あれはあれで金がかかる」
「どうにか忍び込めませんかねぇ………」
「無理だな。忍び込もうとしてSecritronに見つかれば、その場で射殺されることになっている」

KutoはSecritoronに射殺される光景を想像した。人間に殺されるならばともかく、機械に殺されるのは真っ平ごめんだ。
さりとて今から仕事をして、1000Caps以上の金を稼ぐには時間がかかる。Platinum Chipがいったいいかなるものなのか、Bennyなる人物はPlatinum Chipを用いて何をするつもりなのかがわからないため、あまりのんびりとはしていられない

そのときKutoの目に留まったのは、夜の街の交差点で客引きをする、薄着の金髪の女性の姿だった。何処よりも安く飲める店、Atomic Wrangerと謳っているその看板の脇には、カジノを示す電灯看板があった。

「そうだ、良いアイディアがあります」
手を打つKutoに、Booneは顔を顰めて応じた。
カジノで一発当てようなんて考えているんじゃないだろうな」
「まさか……、一発当てるだなんて」Kutoは笑ってみせた。「ただちょっとだけ、お金を稼ごうとしているだけですよ」

よほど賭け事が嫌いなのか、店に入っても厭な表情をしていたBooneだったが、その顔はBlack Jackで80枚のチップを1150枚に増やしたときも変わらなかった。彼はKutoが勝つたびに、そろそろ止めておいたらどうだ、と忠告した。彼によれば、勝っているように見えてもそれは一時的なことで、長い目で見ればカジノ側に金を取られているだけだという。

Black Jackは好きなゲームのひとつだったが、ディーラーにだいぶん警戒され始めてきた気がしたので、Kutoはルーレットの台に移った。正直なところ、Kutoはルーレットは苦手だ。赤と黒の違いはわかりやすいが、たとえば12と19という数字は何が違うのだろうか。賭けるときに少し考え込んでしまい、あまり回転率が良くない。結局ルーレットでは200枚程度しかチップは増えなかった
このあたりでのBooneの表情は、それ見ろ、そう上手くいかないのだ、しかしよく考えると勝ち続けているな、これはどうしたことだ、いや、きっと今だけだ、そのうちおれに泣きついてくるさ、おれの腕に飛び込んで来い、とでもいうような表情だった。

スロットへ移る。スロットは好きでも嫌いでもない。勝つと面白いが、勝ち続けると面白くないのは、きっとスロットの向こう側に人間がいないからだ。人間が目を操作しており、勝ち負けを相手に決められているほうがまだ面白みがある。
しかしKutoの場合、経験上いちばん儲かるのがスロットだった。
「蜜柑みっつで160倍かぁ………」
Kutoは当たりの表を見つつ呟いた。最大賭け金の100チップをベットし、回す。中央に檸檬の出目が揃う。檸檬は40倍だ。100チップが一回で4000チップになった。

もう一度、とスロットのチップ投入口に手をかけたとき、手を掴まれた。Booneが強引に止めようとしてきたのかと思ったが、彼ではなかった。Kutoの手を掴んだのは、カジノの大柄な店員だった。
「お客さん、大当たりおめでとうございます
「はぁ……、ありがとうございます
「ところで、ここら辺でほかのこともいかがでしょうか? うちにはカジノだけではなくバーもありますし、ショウもやっていますよ」

どうやら遠まわしに、程ほどにしておけ、と警告されているらしい。Kutoは素直に頷ういて、Booneを連れてバーのカウンターへと座った。

「やっぱり、簡単には儲かりませんねぇ………」
チップをすべて換金する。Stripへと入るための金額は稼げたが、大儲けというほどには稼げなかった。場末のカジノならば、こんなものだろう。Stripのカジノならば、もっと稼げるかもしれない。
Booneの返事はなかった。彼は膨らんだ財布を見て、唖然としていた。


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