惑星不時着から丸一日が経過した。その間、キャプテンら5人は、探査艇にもともと積んであった保存食料を食事としていた。生物学者によればこの惑星の生物は摂取しても(毒がある一部の種を除いて)問題ないらしいが、キッチンの修理が完了していないため、生き物を捕まえて料理するとなると火を焚かざるを得ず、そうすると集落から煙が見えてしまう可能性もあるだろう、という理由からだった。既に大掛かりな不時着をしてしまったのだから、いまさら料理の火など気にしても仕方がないだろう、とキャプテンは思ったが、ここが未知の惑星であることを思い出し、忠告に従った。保存食は味気ないが、しかしたとえば先住民に捕まって料理されるという食べられる立場になるよりは良い。

その晩、サイバネティシストの召集で全員が休憩室に集められた。
日常的な会話に関してはほとんど問題がない程度、翻訳が完了しました』ヴェルダンディが告げる。『同時に、この惑星……、というより、あの集落に関しての情報がある程度蒐集できました。それについてお話したいと思いますが、よろしいでしょうか?』
全員が思い思いに頷く。
『先ほど解析を終えたばかりですので、説明画像が用意できませんでしたが、ご了承ください。では、説明を開始します。まず話を簡便にするためにあの集落の名前についてです。あの集落の名前はエトリア。この周辺地域では比較的小さな部類に入る町だそうです。以後、あの集落、エトリアの住民をエトリア人彼らの話す言語をエトリア語と呼称します。エトリアの文明レベルはおおよそ地球の西欧諸国の16世紀前後と同様です。生活もほぼ同様で、異なるのは戦争のようなものが周辺で起こっていないことですね。周辺の森林地帯に豊富に存在する果樹や生息している野生動物を捕らえ、また平原を拓いて作物を育てて生活をしているようです。家畜も存在しています。銃火器の類は存在していません。ここまでで質問は?』
「結局、言語は一つで良かったの?」と翻訳に協力したドクターが尋ねる。
『そのように解析されました。訛りや方言のようなヴァリエーションも非常に少ないようです。それがエトリア語の特性なのか、それともエトリアが小さな町であるためなのかは不明です』
「なるほど」
『他にはありますか?』
エトリア人の特徴は?」キャプテンは訊く。
『現状では観測できません。つまり、人間と同じです。サンプルがあれば比較もできますが、少なくともこの距離からの観測で人間と異なるように見える点は存在しません』
「文化面では?」
『先ほども述べたように、ほぼ地球の中世文明と同じような生活をしています。ただし、特徴的なところもあります。これについては、これから説明させていただきます。他にはありますか?』

無言でヴェルダンディの話の続きを促す。

『では、続けます。先ほど言った文化的な特徴面ですね。これは、彼らがいわゆるトレジャーハントを生活に組み込んでいるという点です。エトリアには【世界樹の迷宮】と呼ばれる巨大な地下樹海……、これが具体的にどのようなものかはわかりませんが、存在しており、エトリア人の一部はそこに潜ることを生業にしているようです。彼らの会話からは、【世界樹の迷宮】には多くの宝があり、また地下奥深くには素晴らしい財宝が眠っているそうです。そしてここからが重要な点なのですが、昨日私が述べた妨害電波の予想発生点が【世界樹の迷宮】の真下となっています』

ヴェルダンディが場を伺うように一度話を止めた。

「つまり」と生物学者。「妨害電波の発生源はその迷宮の中にある可能性が高い、というわけね」
『その通りです。さて、セシル。いかがなさいますか?』
急に名前を呼ばれ、キャプテンは驚いた。咄嗟に言葉が出ない。
『対妨害電波発生装置シールドは現段階では設計案が出来ていません。ですが、エトリア語の小型翻訳機はプリシッラの手助けにより、既に完成しました。あなたがたがエトリアまで赴き、妨害電波発生装置の情報を集めることは可能でしょう。ここに留まっていても残っている食料は非常に少なく、事態が好転する可能性は非常に低いです』
キャプテンは小さく深呼吸をして考える。考えが纏まらない。目が泳ぐ。
「キャプテン、きみが決めるんだ」ドクターが言った。

(わかってる!)
わざわざ言わなくても良いのに、とキャプテンは思った。嫌味ったらしい。

「行ってみましょう」キャプテンは決心した。「そもそも我々の目的であったSETIの対象がこの惑星の住民である可能性もありますし、シールドの完成を待ってここから飛び立つ気もありません。ある程度の調査が必要です。翻訳機が複数完成次第、私と数名がエトリアで情報収集を行います。何か意見や質問は?」
「それについてだけど」ドクターが小さく手を挙げる。「いっそのこと全員で行ったほうが良いんじゃないかな、エトリアには。保存食料が少ないのはヴェルダンディの言った通りだし、なくなれば煮炊きをせざるを得なくなる。エトリア人の我々に対する友好性がわからない以上、存在を気付かせるわけにはいかないね。食事は向こうで摂ったほうが良い。こちらで我々がすべき作業はある程度のことはプログラムをしておけば済むし、こちらからあの町への移動時間を考えると、できるだけ離れないほうが良いだろう。なによりあの町は中世レベルの文明だ。少数では危険だ
『最後の意見に関してはよくわかりませんが、概ね同意します。私も船内の快適空間調整プログラムの優先順位を落とすことができるため、作業が楽になります』
「僕とライアンくん以外は女性だからね。危険だってこと」
ドクターの提案ということで反対したい気持ちに襲われたキャプテンだったが、彼の意見に特段おかしな点はない。頷く。「そうですね。そうしましょう」

今日のところはヴェルダンディ内で行われる自動プログラムの作成と全員分の小型翻訳機の製作をし、それらが完了次第エトリアの町へ向かう、ということで会議は終了した。
会議終了後、キャプテンは一人休憩室で溜め息をついた。責任ある立場ということで、心労があったのだ。
頭に手が乗せられる。サイバネティシストの手だった。彼の手はキャプテンの頭に軽く触れ、髪の毛を軽く掻き分け、そして離れた。サイバネティシストも休憩室を出て行き、今度こそ一人になる。
しっかりと場を纏めたことを褒められたのだと気付き、キャプテンは嬉しくなって口元が緩むのを抑えられなかった。

サイバネティシスト
氏名 ダリウス・ライアン
性別 男性
年齢 25歳
経歴 ノルン・セカンドのコンピュータのソフトウェア部分を担当する電子技師。またノルン・セカンド・ナンバーツーのAI、ヴェルダンディと船員の間を取り持つサイバネティクス・コーディネイターでもある。キャプテンとは同じ大学の先輩後輩の関係。特技は足の指でのブラインドタッチ。



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