「肩凝った」


執政院ラーダでのギルド登録手続きを済ませ、外に出たノルン・セカンド・ナンバーツーの乗員らの第一声は、技師のそんな言葉だった。
お役所仕事が面倒なのはどこも同じだね」とドクター
「あのおっさんが全部やってくれたもんだと思ってました」
「やってくれたのは最初の手続きだけみたいね」生物学者が肩を竦める。「でももっとかかるものだと思ってたから、ましなほうじゃない?」
「ああいうのは、あれだね、どんどん簡略化されるか、そうでないと効果に対する価値を無駄に高めようとして、時間か費用がかかるようになる。価値観をどうにかして合わせようとするんだ」ドクターがよくわからない理論を言う。

背後でそんなやり取りが行われているのをキャプテンは確認し、それから隣を歩くサイバネティシストを見やる。見知らぬ異国(というより、まったく別宙域の惑星なのだが)で二人並んで歩く。なかなか良い状況であるのだが、二人きりとはいかないのが難点だ。

(そんなこと考えている場合じゃないんだけどね……)

この状況は異常すぎる。どう見ても地球上のものにしか見えない生物、文化謎の地下迷宮。そして電波異常。キャプテンはノルン・セカンドの長だ。自分が纏めなくてはいけないのだから、煩悩に現を抜かしている場合ではない。今は世界樹の迷宮という地下迷宮を探索するため、準備を整えようとしている最中なのだから。

向かっている場所は、酒場の店主であるサクヤに紹介され、執政院からも行くように指示された『シリカ商店』という店だった。世界樹を探索する冒険者は誰もが訪れる店であるらしい。質屋も兼ねているらしいが、執政院ラーダから新規ギルドの補助金として多少の金は貰ったため、今のところはそこまで世話になるつもりはない。執政院ではエトリアの町の地図も貰ったのだが、方位図法がわからないことと文字が読めないことで、辿り着くのにだいぶ難儀している。

「この辺だと思うんだけど……」
地図を見ていたサイバネティシストが立ち止まったのは一軒の店の前だった。店の外にまで商品が飛び出しているような小さな店だった。冒険者の誰もが訪れるような店には見えない。周囲の店が煉瓦造りだったりしているのに対し、木造というのも怪しい。

「ここじゃないんじゃあ……」キャプテンは呟く。
「賛成」と技師。
「とりあえず……、入ってみる?」地図を見ていたサイバネティシストも自信なさ気だった。

狭そうな店内に全員が入ると窮屈そうだったため、生物学者と技師が外に残り、キャプテン、サイバネティシスト、ドクターが入店した。
意外にも店内は(外見よりは)広かったが、三人が入ると小柄な女性であるキャプテンでも少々狭く感じた。店内には剣や盾など、本でしか見たことがないような道具が飾ってある。もしかすると本当にここが『シリカ商店』なのかもしれない。

カウンターには浅黒い肌の少女が突っ伏して眠りこけていた。この店の従業員だろうか。
「もしもし」サイバネティシストが少女の頭に触れる。
少女がゆっくりと頭を上げ、それから店内を見渡し、キャプテンら三人の顔をゆっくりと眺めていく。
「あれ? お客さん?」少女は寝惚け眼で言葉を発す。
「そうなんだけど……、えっと、店員さんはいるかな?」サイバネティシストは穏やかな口調で尋ねた。
「ぼくだよ」

少女は、シリカだ、と名乗った。どうやら若い身空で雑貨店の店主をしているらしい。あるいはこれくらいで店を構え、働くのがエトリアで当たり前のことなのかもしれない。

キャプテンが感心していると、ノルン・セカンドのメンバーたちを眺め回していたシリカが口を開いた。
「あぁ……、昨日新しくギルド立ち上げた人たちね。5人って聞いたけど……」
「2人は外で待ってるよ」
「あ、そう。じゃあちょっと待ってて」

シリカはカウンターの奥へと引っ込み、袋を抱えてすぐに戻ってくる。

「これ、支給品ね。えっと、パラディン、ダークハンター、レンジャー、バード、メディックだったよね。ナイフ4本ワンド1本ね。あとツィード5枚」シリカはカウンターの上に袋を置いた。
「支給品?」キャプテンは尋ねた。
「ギルドの要項に書いてあったでしょ? 補助金1000エンと最低限の支給品人数分は配られるって。お姉さん、とりあえず読むものは読んでおきなよ。さて、渡すものは渡したからね。あと買い物もしていく? ギルドのリーダーさんはだれ?」シリカは畳み掛けるように言う。
「わたしだけど……」キャプテンは小さく手を挙げた。
「え?」シリカは目を丸くして驚いた表情。「こっちのお兄さんとか、あっちのおじさんとかじゃあないんだ」
「リーダーは彼女だよ」とドクター。
「あ、そう……、大丈夫なの?」シリカはキャプテンを見上げる。
「大丈夫です」キャプテンは言う。どうもこの少女が突っかかってくるのはなぜだろう。

「えっと、ここでは質屋も兼ねているって聞いたんだけど……」
「うん、そうそう」サイバネティシストの問いには笑顔で返答するシリカ。「あ、でもね、今は取引する商品を限定しているんだ。ごめんね」
「何なら引き取ってくれるんだい?」ドクターが尋ねる。
世界樹で採取できた素材類だね。動物の毛皮とか、世界樹だけで取れる木材とか、いろいろ。うちの店はそれで武器を作ってるから」

どうやらノルン・セカンドの物資を売ることはできないようだ。ノルン・セカンド内の物はエトリア原住民にとって非常に珍しいものであるはずなので、売ろうとすれば高値で引き取ってもらえるのだろうが、しかしそれで目立つわけにもいかない。取引できるのは当たり障りのないものだけだ。

「ぼくら、迷宮に潜るのは初めてなんだけど……、何か必需品みたいなものってあるかな?」
「うーん……、はまだ売れないから……、パラディン用に盾と、あとはレンジャー用にウッドボウダークハンター用にライトウィップくらいかな。買わなくても第一層はどうにかなると思うけど、まぁお金はあるうちに使ったほうが良いよ」
大丈夫なのかな、この店……」キャプテンはサイバネティシストに囁いた。「冒険者はみんな訪れるっていうけど、全然人いないし………」
「聞こえているよ、お姉さん」シリカが仏頂面になって言った。「最近は世界樹探索する冒険者も少ないんだよ。店の問題じゃない。買い手のモチベーションの問題

「世界樹を探索する冒険者って、少なくなっているの?」とサイバネティシスト。
「うーん……、まぁね。最近言われているのはねぇ……、財宝なんかないんじゃないか、って」シリカは大袈裟に両手を肩のところまで挙げてみせる。「まぁ、それでも珍しい生き物とか素材があるのは確かだから、一応世界樹に潜る冒険者はいるけど……、本気で最深部に到達してやろうって人はなかなかいないね。新規の冒険者はだんだん減っている。おかげで店も上手く回らないし……、だから、世界樹の素材を集めてきてくれると嬉しいよ。高値で買い取るからさ。お兄さん、頑張ってね」
おいおい、態度が随分違うじゃないか、とキャプテンは思った。


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