この先は危険だと、そう言って両の脚を肩幅に開き、道の真ん中に立ち塞がって往来を封じていたのは一見して只者ではないとわかる立ち振る舞いの女性であった。
艶やかな長い黒髪を後ろで纏め、胸には晒、腰から下は東方でいうところの袴という着物の一種か。エトリアでこういった着物がどういった扱いなのかは知らないが、エトリアの町で着物姿のエトリア人を見なかったことを考えると、やはり一部の民族だけが着続けている衣装なのだろう。
腰元に視線をやれば、帯刀しているのが目につく。刀のほうは、シリカ商店でも見た。ノルン・セカンドの乗員は誰もその刀を扱えそうになかったので買うことはなかったが、目の前の女性はそれを使いこなしているように見えた。刀そのものを自らの腕のように扱い、地に突き立てる姿は、彼女自身が刃そのもの。

もっともキャプテンの他に、目の前のブシドーの能力を理解している人間はいないようだった。日本人であるところのドクターでさえも、剣術に関して素人なのは彼の体つきを見ればわかる。サイバネティシストは学生時代に陸上をやっていたため身体は引き締まっているものの、武道を習ったということはなかったはずだ。他のメンバーに関しても同様である。
そういうわけで、目の前の女性が腰元の刀を抜き放ち、地面に立てるまでの目にも留まらぬ一動作を繰り出してみたところで、拍手以上の感動はありようもなかった。

「この先は、危険だ」
刀を地面に突き刺したブシドーは、そう言い放った。麗しい見目そのものの冷たい声である。
「危険というのは?」
暢気な口調でそう返すのはドクターであった。日本人というのは、危機に対する意識が弱いのだろうか。一歩前にと踏み出してさえもいる。既にブシドーの刀の間合いに入っているというのに、それに気付いた様子さえない。

「その様子だと、執政院から依頼は聞いていないな?」キャプテンが頷くと、ブシドーの女性は語り始めた。「わたしはブシドーのレン。そしてこっちが」
とレンと名乗った女性が身を引くと、彼女の背後に隠れていた少女が姿を現した。小柄な、フードを纏った人物だった。背が低いがために全身がすっぽり隠れていたというのはあるが、それを踏まえても自分が彼女の気配を感じられなかったことに、キャプテンは驚きを隠せなかった。
「カースメーカーのツスクルだ」とレンは続けてその少女を紹介した。

ツスクルのほうはまったく言葉を発さずに一礼しただけ。話を繋げたのはやはりレンだった。
「ここより下層で、危険な狼が発生した。スノードリフトというやつで、普通の冒険者には少々相手するのが厳しい魔物だ。ゆえに執政院ラーダに一定の力量を認められなければ、下層へは降りられないようになっている。先に進みたければ、執政院でミッションを受けるんだな」

ふむん、とドクターが唸る。「ならば、仕方がない」
そういうわけで、ぞろぞろとエトリアの街へ戻ることになった。
レンの言う、「執政院に一定の力量を認められた」のかどうかはわからないが、執政院ラーダでは、簡単に資格を受けることができた。

Mission:スノードリフトの恐怖
Mission Purpose: スノードリフトの討伐

「つまり、他にミッションを受けるようなギルドがないのよね」
そう言ったのは、金鹿の酒場の女主人、サクヤである。エトリアに帰ってきたときには既に暗かったため、執政院にて討伐依頼を受けた後、キャプテンたちは酒場で食事にすることにしたのだ。
今日も今日とて、酒場は閑散としていた。地球人とエトリア人との間で美的センスや味覚に大きな齟齬がないのであれば、サクヤは美人だと思うし、料理も美味い。だというのに流行らないのは、サクヤが世界樹の迷宮の冒険者に常々冒険を促しているかららしい。
「レンさんと、えっと、ツスクルさんという方がいましたけど……、あのふたりは?」とキャプテンは尋ねる。
「あのふたりは今でも一線で活躍しているギルドだけど、ふたりきりだからねぇ……」ほぅ、とサクヤは頬に手を当てて息を吐く。「誤って深い階に、何も知らない駆け出しの冒険者が行かないようにするのも、重要なお仕事だし」
わたしたちは、どうでも良いって思われてるわけだ」
呟くように言ったのは食べるのに集中していた技師だった。

「そういうわけでも、ないと思うけどな」サクヤは苦笑しつつ言う。みんなのこと、期待しているのよ。
「期待?」
そう、とサクヤはサイバネティシストの言葉ににっこり頷く。「こんなに短い期間で地下3階まで到達したギルドは初めてだからね」
なるほど、とサイバネティシストも笑ってキャプテンのほうに視線を向けてきた。キャプテンら、ノルン・セカンドの一同の装備は、見た目はエトリアのそれと同じでも本質的にはまったく異なる、地球の技術で作られた装備だ。ゆえに簡単に潜れたのだ、とそういうことだろう。気を引き締めねば。

「それはそれとして」とサクヤは言った。「みんな、さらに下層に行くのなら、依頼も受けていってね。新しい依頼もいろいろと入ってるから」

Mission: シリカ商店の依頼2
Mission Purpose: ショートボウ作成

Mission: シンリンチョウ退治
Mission Purpose: シンリンチョウ退治

新たな依頼を受けた翌日、ノルン・セカンドの一行は再度、世界樹の迷宮へと向かった。


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