1257年10月18日
216日目
白の一角獣、男の装束を身に纏いて兵役についていた少女に死したる女の面影を見ること

Name: Bill
Sex: Male
Level: 24HP: 65
Attributes: STR18/AGI14/INT13/CHA13
Skills:
【STR】鋼の肉体6/強打6/弓術6
【AGI】武器熟練4/馬術4/馬上弓術4/略奪4
【INT】訓練1/戦略4/経路探索1/観測術1/荷物管理1
【CHA】捕虜管理2/統率力4/取引1
Proficiencis: 弓254/長柄武器247/片手武器107
Equipment: 壮麗なバシネット/ベージャー・ラメラー・アーマー/アワーグラスガントレット/錆びた鉄の脛当て
Arms: パルチザン/黒檀の剛弓/大袋入りの黒檀の征矢/強化された重カイトシールド
Horse: 駿馬
Companion: マンスール

カミーユ、正確にいえば、これから長いことをカミーユと名乗ることにした少女は落ち着かなかった。
カーギット・ハン国の都市、ハルマール。カミーユはその酒場にいた。

宿屋を兼ねた酒場であり、特段上品な場所でもない。周りは酔客だらけで、言葉を交わすには苦労するほどに五月蝿い。しかしただ五月蝿いだとか、脱ぎだす大人がいるだとか、そんな理由でカミーユはこの場を居心地悪く考えているわけではなかった。
酒場というのは、酒を飲む場所だ。酒を飲むのは、大人だ。自分は、大人ではない。だのに子どもの自分が、こんなところにいて良いのか。
カミーユが感じていたのはそんな所在のなさで、つまるところ未知の空間に対する漠然とした不安だった。

この酒場という場所が不快なら、出て行けば良い。普段なら言われなくとも、カミーユはそうする。厭なところからは逃げ出す。
だが今回はそうもいかなかった。この場所で人と待ち合わせをしているのだ。
何せカミーユは脱走兵。相手も相手で、さる高貴な身分である。ゆえにできるだけ人の多い場所で自然に溶け込んだほうが良いという判断だったが、自分のような子どもがこんな場所にいたら、かえって目立つのではないかと思わないでもなかった。

砂糖水に口をつけながら落ち着かなく座っていると、背中に急にぶつかってくる者があった。後ろを振り返ってみると、酔客が笑い転げた拍子にカミーユにぶつかってきていた。
「おお、すまんすまん、坊主
そう言って酔客は起き上がり、カミーユの頭を撫でた。酒臭い息を顔に吐きつけられて、返答の言葉も吐き出せない。目を瞑って耐える。

なかなか頭の上から手が下りない。否、降りてきた。顔へ、鼻へ、口へ、首元へ。怖くなってカミーユは目を薄ら開けた。酔客は、カミーユの胸元にまで手を下ろしてきていた。
「なんだ、女じゃねぇか」
そう言うや否や、彼はカミーユに圧し掛かってきて胸を揉みしだいた。あまりの展開に、カミーユは声も出なかった。怖いという感情と、痛いという感覚だけが頭の中を支配していた。酔客の連れはやんややんやと歓喜する様子でカミーユに近づき、周りの客はこちらの騒動に気付いていない様子だった。気付いても助けてはくれないかもしれない。客は皆男で、しかも傭兵崩れのような人種が大部分を占めていた。特に、そう、隅で飲んでいるふたりの男なんて、強面で。

その強面の男たちふたりはやおらこちらにやってくると、持っていた槍の柄でカミーユに圧し掛かっていた酔客の頭をぶっ叩いた
殴られた酔客は泡を吐いて仰向けに倒れた。余程強く殴られたのか、頭からは血を流していた。


マンスールには意外だった。
ひとつには、自分よりも早くにウィリアムが少年を助けたことである。女相手ならともかく、少年を助けるために彼がマンスールより早く動いたというのが信じられなかった。急にパルチザンで殴りかかったことを考えれば、あるいは単に血が逸っていただけなのかもしれないが。
もうひとつは、少年の髪の色だった。光の反射のためか、明るい色合いの髪が一瞬だけ稲穂のようなブロンドに見えた。まるで、先日の戦いで死んだ女、マテルドのように。

白の一角獣は先日の戦いで完全に壊滅していた。ベルガル卿との戦いの後、マンスールが生存を確認できたのはのは隊長のウィリアムだけ。ボルチャやマテルドは、死んだ。バエシュトゥールは生存定かではないが、その他のほとんどの隊員はすべて死亡した。一時期は100名を越える規模があった白の一角獣は、壊滅したのだ。

命があっただけでも幸いだった。マンスールは隊長、ウィリアムとも再会できた。
さりとてこれから何をしようということもなく、ただ時間を潰していた。
本来ならば、いらぬ嫌疑をかけて隊を壊滅に追いやった相手に復讐すべきなのかもしれない。が、相手は強大すぎた。カルラディアを統べる五国のひとつ、ベージャー王国である。国ひとつを相手にするのは容易なことではない。
だから、燻っていた。何もできないままで、マンスールたちは酒を酌み交わしていた。そこでこの騒動である。見れば、美少年が男に襲われている。マンスールとしては、助けないわけにはいかなかった。そうして剣を手に取ろうとした時、既にウィリアムは槍で殴りかかっていたのだ。

ここから乱闘騒ぎというわけにはいかない。何せ相手のほうが数が多く、狭い酒場内である。如何にマンスールとウィリアムが百戦錬磨の傭兵であるとはいえ、この人数相手には無傷ではいられない。それに助けた少年を守らなくてはいけないというのもある。
マンスールは少年を連れて逃げ出した。酒場から逃げれば、酒代も払わなくて済むので一石二鳥である。

「助けてくれて、ありがとう」
酒場から離れてようやく人心地ついたところで、少年が礼を言ってきた。本当に、助かりました、と。彼はカミーユと名乗った。
「いやいや」とマンスールは手を振った。「騎士として、弱い者を助けるのは当然のことですよ。それより、怪我はありませんか? 可愛らしいその顔が傷ついたら大変ですからね」
「騎士さまですか?」
ぎくりとカミーユが身体を緊張させるのが感じられた。
騎士として、とマンスールが言ったのはかつての経験からであるが、どうやらカミーユは騎士に恐れを抱いているらしい。脱走兵か何かだろうか、と検討をつける。
「きみは……」
マンスールが言いかけたとき、それまで無言だったウィリアムが動くのが感じられた。パルチザンを暗い路地の奥へと構える。

怪しいものではありません、と槍の穂先から声が発せられた。出てきたのはローブを着た男だった。
「カミーユさまで?」
厳かな男の声に対し、カミーユが頷いて反応すると、さようですか、と男は応じた。無手であり、かつ未だにウィリアムから槍を突きつけられているというのに、やけに落ち着いた物言いだった。余程自分の力量に自信がある人間なのだろう。実力が伴っているのかどうかまではわからないが。
「予定が変更になりました。わが主はイクマールでお待ちです」
「わが主……」あ、とカミーユは可愛らしい声で言った。何か思いついたようだ。

ローブの男はいつの間にか消えていた。槍を構えていた熟練の傭兵たるウィリアムでさえも反応できない身のこなしである。只者ではない。しかも、わが主、なる言葉は脱走兵には重過ぎる呼び方である。
いったいきみは何者なんだ、とマンスールは問い質した。
「ええと、ぼくは、あの……」カミーユは胸元で指を絡め、迷う様子を見せていたが、やがて決意したように顔をあげた。「脱走兵なんです」

カミーユ曰く、一時期は兵役についていたものの、ある将軍に手篭めにされそうになって逃げ出したのだという。
「その将軍とやらは」とウィリアムが誤解を招くようなことを言う。「おまえと似たようなものだな」
「失礼な」マンスールは返す。「わたしの場合は、常に相思相愛です」

首を傾げるカミーユに、続きを促すと、先を述べた。「ぼくと一緒に脱走兵になった男の人で、ジョルジュっていう人がいるんです。その人とは離れ離れになってしまったけれど、きっと何かあったときのために、人を紹介してもらっていたんです。ぼく、その人に助けてもらおうと思って………」

その相手というのが、先ほどの密偵らしき男の主人であり、「わが主」というわけだ。
ハルマールから馬で一日、イクマールにその男はいた。
名は、ヴァルディムベージャー王国の正当なる王である。





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