1458年01月16日
300日目
蠍、毒を抜かれること

Name: Rana
Sex: Female
Level: 12
HP: 53
Attributes: STR12/AGI12/INT09/CHA12
Skills:
【STR】鋼の肉体3/強打3/豪投4
【AGI】武器熟練2/アスレチック2/乗馬2/略奪2
【INT】訓練2/観測術1/荷物管理1/治療2
【CHA】説得3/捕虜管理1/統率力4
Proficiencies: クロスボウ175/火器112/片手武器102
Equipment: 貴婦人の頭布/サランの貴婦人のドレス/痛んだ薄片の篭手/粗雑なLeather Steel Greaves
Arms: 鍛え抜かれた両手サーベル/攻城用の弩弓/鉄のボルト/歪んだThrowing Daggers
Horse: 重い駿馬
Companions: ユミラ/バートル


「あぁ………」
どんなにか、どんなにか力を篭めようとしても、無駄だった。無防備に眠っているハキム帝に近づくことはできる、首筋にナイフの刃を当てることもできる。だが、それ以上はどんなにか力を篭めても、肉を裂き骨を折ることはできなかった。

 サラン朝の首都、シャリズがカーギット・ハン国に奪われた今、ハキム帝はバリーエに身を寄せていた。
 事を成し遂げるため、バリーエの砂漠で行き倒れのふりをし、通りがかったハキム帝に拾われることなど簡単だった。そのまま王に見初められ、側女のひとりとなることも、寝台にナイフを忍ばせることも簡単だった。

 なのに、なのに、その先が達せない。
 何度目の同衾だろうか。いつもいつも、このハキムという男は無防備だった。殺そうと思えばいつでも殺せた。だのに最後のひと突きが達せない。殺せない。一国の王を殺し、その罪を被るのが怖いわけではない。理由はわかっている。

 ただ肌を重ねあっただけで、ラナはこの男に慕情を抱いてしまった。相手がこちらを愛していたはずがない、ただ行きずりの人間で、愛人として適当だと思われたに過ぎないはずなのに、それなのに。

「だって、フライチンさまはこんな気持ちになるだなんて言わなかった」

 こんなに痛いだとか、辛いだとか、それでいていっぱいに満たされる感じがするだとか、そんなことは教えてくれなかった。ただ、簡単なことだと、適当に身体を預けていればそれで済むのだと、そう言っていたから。だから、何も知らないままだったのだ。

 それでも、それでもやらなければ。やらなければいけないのに。手を震わせていたラナの前で、ハキム帝が薄らと目を開いた。ラナは瞬時に傍にあった果物にナイフを投げて隠す。
 ハキム帝はラナを見とめると、その身体に抱き寄せてきた。髪を梳き、首筋に指を這わせ、言った言葉が「おまえはハワハの出だと言っていたか?」であった。
 はい、とラナはこくり頷いた。
「あの辺りは、もう駄目だな」と呟くようにハキム帝は言う。「シャリズはカーギット・ハンに獲られたし、カラフ城はロドックにやられた。あちらに攻め込もうにもテラマ城まで押さえられていてはどうにもならん」

 ハキム帝の言うとおり、かつてサラン朝の領土であった街や城の多くは周辺国によって奪取されていた。落ち目のスワディア王国はともかく、カーギット・ハン国とロドック王国はサランにとっての大きな障害だ。今のサランの領土は、ラナが子どもの頃と比べれば半分程度まで縮小している。ハキム帝を暗殺せずとも、このままサラン朝は戦争に負けてカルラディアの覇権争いから脱落するのではないかと思えるほどだ。

「ずっとハワハにいたのか?」
「いえ……、村を出て、吟遊詩人の真似事をしながら旅をしておりました」
「なるほど。では何か詠ってくれ」
「では、『カイサーとラヤラの物語』を………。この詩は羊飼いのカイサーと、貴族の娘ラヤラの恋物語でございます」
 題を告げてから、ラナは心の中で深呼吸しなければならなかった。ラナが語った来歴の半分は嘘ではない。ハワハ出身なのは本当だし、ハキム帝に見初められるようにと吟遊詩人から詩も習った。だがこうして閨で詠うのは初めてで、それが恋の詩であれば尚のこと、緊張する。

 ラナは心を籠めて愛の詩を詠った。ハキム帝は詩に聞き入っていて、隙だらけに見える。殺すことも難しくはあるまい。だが手は動かず、詠い続けることしかできなかった。


 大草原の埃は風に舞い上がり、そなたの塔の窓辺で紗幕を揺らす。
 我が酔い路地照らす月は寝台に眠るそなたに見入る。


 詠い終えると、ハキム帝は詩を褒め称えるわけでも、顔を顰めるわけでもなく、ラナを抱き寄せた。ラナはされるがままにしていた。
「おまえは腕に覚えはあるか?」
 放たれた一言に、てっきりまた夜伽が始まるものと思っていたラナはきょとんとしてしまった。
 でなくとも、返答に詰まる。ラナは暗殺者であり、腕に覚えがあるどころの腕前ではない。それを告げてしまえば警戒されるかもしれないが、単なる女ではないことは身のこなしを見ればわかるかもしれない。嘘を吐けば、さらに警戒されるだろう。
 逡巡していると、ハキム帝は勝手に自答していた。
「いや、訊かずともわかる。その美貌で独り身の旅をしながら純潔であり続けられたのだから、腕が立つに違いあるまい。詩を覚えるだけの頭もある。何より器量が良い
 はぁ、などと応じるしかないラナの前で、ハキム帝はしばし考え込む様子を見せた後、その頭とこちらの耳を疑いたくなるような言葉を投げかけてきた。

「おまえにウズガの領土を与えよう。貴族になるのだ、ラナ」
 と、あまりの唐突な言葉に、ラナは毒を抜かれる思いだった。




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