目が覚めると、如何しても最初に自分の置かれている状況を確認してしまう。毎度毎度、眠りに入るときの状況が違うからである。
 毛布はあまり寝心地の良い物ではなく、寝台も硬くて身体が少し痛い。服は着ていて、ホルスターも着けたままだ。しかも何だか近くで火が爆ぜている音がする。焚き火だろう。ならば昨日は野宿だったか。
「お目覚めですか。おはようございます」
 と、そんな言葉を受けて、ようやくKutoは己の置かれている状況を思い出した。

「おはようございます………」
 もぞもぞと寝台から抜け出て、KutoはDidiに挨拶をした。まだ陽は山に掛かっている程度で薄暗い。だというのにDidiは既に覚醒状態にあるという様子である。
「いやぁ、朝は得意なんですよ。もう齢かな」
 と言ってDidiは快活に笑う。昨日は余っていた寝台がひとつきりしか無く、彼は焚き火の傍で野宿をしたはずなのに、まったく元気なものである。

Perk: Home on the Range (焚き火で睡眠可)
Perk: Solar Powered (日中にSTR上昇、HP自動回復)
Perk: Walker Instinct (野外でPER・AGI上昇)

「支度が済んだら、早速出かけましょう。ぼくはDanielとWaking Cloudの処に行ってきますので」
 Didiは言うと、そそくさと河の上流へと行ってしまった。

 さて出かけるとは何のことだろう、昨日は何があったのだったっけか、とKutoは河の冷たい水で顔を洗いながら考える。
 昨日、KutoたちはSorrowの集落を訪れた後、役目を終えたFollowing Chalkと別れてSorrowのWaking Cloudなる女性に案内してもらい、Sorrowの指導者であるというDanielに会った。
「Dead Horseの奴らから、White Legsに襲撃されたって話は聞いたよ。気の毒だったな。まぁ、歩きながらでも話そうや」
 と、Danielは会うなりそんな調子で話しかけてくる気さくな人物であった。
 滝の周りを歩きながら、互いに自己紹介をし合った後、Kutoらは回収した戦前の遺品を手渡した。Danielは感謝の意を述べつつも、Joshuaが約束していたような支援はすぐには出来ないと説明した。
「こちらも色々と滞っていてな……。色々とやりたいことは有るんだが、最近は上手くいかん。Joshuaから聞いているかもしれんが、禁忌の問題が有ってな」

 これはまた厄介なことを押し付けられそうだな、と考えていたKutoを他所に、Didiは道端に座り込んでいるSorrowを指して、「あれは何をしているんですか?」などと訊いていた。緊張感が無い。
「ああ、祈ってるのさ」とDanielも「Sorrowはその名の通り、感受性の強い種族だ。家族や友人が死んだとき食べるために動物を狩ったとき、そして襲い掛かってくるWhite Legsを殺したときでさえ、彼らは哀悼の祈りを捧げる。まぁ、ちょっと頭がいかれているように見えるかもしれんが、気の良いやつらだよ。おれを受け入れてくれるぐらいには、な」
「ここの人は、皆敬虔というわけですね」
「そうだ。だから、幾らこっちの感覚で、禁忌なんて、そんなもん恐れるもんじゃないと言っても、そりゃあ酷ってもんだな」
「そういうものですか?」とKutoは尋ねた。
「そりゃあそうだろう。怖いだの怖くないだのというのは、感覚的なものだからな。言ってみりゃ、不味いもんを食わされているようなもんだろう。実感として不味いんだから、幾ら他人が美味いと言ったとしても、美味くなるもんじゃない」
 なるほど、とKutoはDanielの説明を聞いて納得してしまった。確かに感覚的なものだと言われると理解しやすい。誰だって、苦手なものくらいはある。

 その後にDanielが頼んできたのは、Sorrowの撤退のための下準備であった。要はGrahamと同じで、禁忌とされる地域を回ってきて欲しいというものなのだが、今回はそれに罠の解除やWhite Legsの撃退といった、実践的なものも含まれていた。
「すまんね、人手が足りてないもんで」
と言ったDanielの表情には色濃い疲労が見て取れた。それまでは彼ひとりで禁忌の地を回っていたのかもしれない。全く、ご苦労なことだ。

「あなたはZionからの撤退を煽動していると聞きました」とDidiが尋ねていた。「Grahamとは、逆の意見だと。それは如何してですか?」
Si vis pacem, para bellum」Danielが述べたのは、Caesar's Legionを彷彿とさせる言語だった。「平和を望むならば、戦争をせよ、か。主は自らを助くる者を助く。それはその通りだ。だが、Sorrowは自分たちを助ける方法を知らん。おれもJoshuaも、彼らを全員守れるわけじゃない。だったら逃げるべきだろう。それが全員の安全のためだ」
「Grahamさんは、別の考えみたいですが」
「Joshuaだって、べつに戦いたがっているというわけじゃあないだろう。ただ……」
 それきりDanielは黙ってしまった。どうやら話し難い事情があるようだ。

「ぼくは構いませんよ」とDidiは軽くDanielの頼みを請け負った。「特に急ぎの用事が有るわけでも無いですし。Kutoさんは………」
「わたしもお手伝いします」
 Kutoは即答した。Mojave Wastelandへ戻る前に、DidiからNCRのRanger Fairy Eyeに関する情報を集める必要がある。そのためには彼に同行しているのが楽だ、という判断からだった。
 その後は交渉して医療物資を分けて貰い、既に夜遅くなっていたため、行動を起こすのは翌日から。案内にはWaking Cloudに任せるということで、Sorrowの集落で休むことになったのだ。

Aid: Meeting People (Speech +10)
Perk: Comprehensions n (本の効果2倍)
Challenge: Speech>65→Succeed

(そうか、Sorrowの手伝いをすることになっちゃったんだ………)
 あの牧師の弱味を握るためとはいえ、面倒なことになったものだ。河の水で顔を洗いながら、そんなふうに独りごちるKutoの耳に、静かな声が聞こえてきた。

「"Babylon河の畔に座っていると、急に涙が出てきた。Zionのことを思い出したからだ”」
 Kutoは首を動かして声の主を探した。流暢な英語なので、Sorrowではない。DanielやDidiの声とも違う。声の主は河を歩いてやって来たJoshua Grahamであった。
「”主よ、Edomの子らがJerusalemの日に、彼らがこう言ったことを覚えておいてください。破壊せよ、その礎さえも、と。Babylonの娘よ、おまえがわたしたちにした仕打ちをおまえに仕返す者は幸いだ。またおまえの赤子を取り上げて岩に投げつける者は幸いだ”」
「おはようございます」
 目の前にやってきたGrahamに、Kutoは水を滴らせながらも挨拶をした。
今の言葉の意味が解るか?」と彼はKutoを見下ろす形で問うてくる。
目には目を、ということですか? それとも、やられたらやり返せ、かな」
「おまえはCasar's Legionに繋がりが有るらしいな」

 Kutoは咄嗟にホルスターの.45 Auto Pistolに手を掛けかけた。が、その手は中途で止まった。既にしてGrahamの手が銃を握っているのに気付いたからだ。
(この人、早い………)
 今の動作は、NCRの牧師に匹敵する速度である。でなくても特段訓練を受けたわけでもないKutoに勝てるはずが無かった。

 Kutoは手を下ろし、口を開いた。
わたしは確かにCaesarと会ったことがありますよ。もしあなたが此処に居るということを伝えたら、彼はどうするでしょうね?」
「さあな」とGrahamは.45 Auto Pistolをホルスターに戻す。「彼次第だ。Caesarは己に付き従う人間を両手から溢れるほどに抱えている。そんな人間たちを使えば、わたしを発見することなど容易なことだ。だがもしわたしが生きているという報告を受け取ったとしても、彼はわたしの生存を認めようとはしないだろう。わたしは亡霊なのだ
「亡霊?」
「彼が犯した最大のミスが、それだ。わたしの身体を焼き、このNew Canaanに突き落とした。それで満足した。確かに殺したのかどうかを確認しなかった。死んで当然だろうと思っていたから。想像できる。予想ができる。賢しいことこそが彼の欠点なのだ」


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