天国/05/484日目


1458年08月02日
484日目
蠍、詩歌を愛する男に愛を告げられるや否や、サラン朝の主によってその仲を絶たれること

Name: Rana
Sex: Female
Level: 30
HP: 55
Attributes: STR12, AGI15, INT14, CHA23
Skills:
【STR】鋼の肉体4, 強打4, 豪投4
【AGI】武器熟練4, アスレチック5, 乗馬5, 略奪4
【INT】訓練5, 戦略5, 経路探索1, 観測術2, 荷物管理2, 治療2, 手術1
【CHA】説得3, 捕虜管理4, 統率力7
Proficiency: 長柄武器253, クロスボウ216, 投擲151
Equipment: 貴婦人の頭布, ブラス・マムルークアーマー, 壮麗なアワーグラスガントレット, 黒金のブーツ
Arms: 鍛え抜かれた戦槌, ひび割れたアーバレスト, 鋼鉄のボルト, 精巧な重い投擲用斧
Horse: 重いサランのノーブルウォーホース
Companions: ユミラ, アルティメネール


 ラナがバリーエをカーギット・ハン国から取り戻して以来、戦況は大きく変わっていた。
 6月にアーメラッドをカーギット・ハン国から奪い返したのを皮切りに、7月にはドロクバとシャリズを奪還して、サランの元の領土を全て取り戻していた。




 さらにこの8月には、カーギット国の街、ハルマールを逆に奪っていた。

サラン朝 対 カーギット・ハン国
サラン朝 595名
ハメザン公
ラッドウン公
ヌアム公
ヌワス公
ハキム帝
ラナ

カーギット・ハン国 318名
イミルザ卿
ウルムダ卿
ハルマール守備隊

結果 勝利



 ハルマールを奪った直後、守備兵が少ないときを狙われたこともあったが、ラナは700を越える敵を、同じくハルマールに駐屯していたヌアム公とともに、寡兵で打ち破ることに成功した

サラン朝 対 カーギット・ハン国
サラン朝 329名
ヌアム公
ラナ
ハルマール守備隊

カーギット・ハン国 734名
アカダン卿
ティリダ卿
サンジャル・ハーン
クラムグ卿
ナスゲイ卿
アスガン卿

結果 防衛



 現在のカルラディアの情勢は、5国が拮抗する形ではなくなっていた。西側の海岸地域からロドック王国の領土に展開するノルド王国、山岳地帯からスワディア王国の存在した中央部を略奪したカーギット・ハン国、そして南の砂漠地帯から中央部に進出しつつあるサラン朝の、3つの国の情勢が強まっていた。
 ラナにも新しい風が流れてきたのは、ハルマールでの迎撃戦も落ち着いた8月の18日のことであった。

「わたしと結婚していただけませんか?」
 ハルマール周辺を巡回中、そんなふうに声をかけてきた男は、明るい色の髪をした若い男であった。ラナは初め、彼の名を思い出せなかった。



 一度会った人間の顔は忘れないよう訓練されていたラナでさえ、名前を思い出すのに時間がかかったのは、彼が流れ者だったからだトゥリビダン大公という、スワディア王国からカーギット・ハン国へ移ったのち、さらにサラン朝に帰順したという経歴の人物である。まだ領地は持っておらず、年齢は22歳。独身だということだから、ラナに結婚を申し込むのは、道理としてはおかしくない。

 疑問なのは、なぜ結婚を申し込んで来るのか、ということである。
以前に、あなたに助けていただきました。リンダヤール城で………」
 言われて思い出したが、カーギット・ハン国のリンダヤール城に捕虜として捕まっていたところを助けてやったことがあった。



「それと、わたしは諸国を放浪してきました。旅先で吟遊詩人に詩を習っていたので、詩歌には多少心得があります。あなたも詩歌に通じているという話を聞いて、それで、興味が湧いて……」
 トゥリビダン大公の話を聞きながら、まずラナが思い浮かべたのはハキム帝の顔だった。彼は、今のラナを愛してくれるだろうか。不意に、ラナは旅の吟遊詩人から聞いた言葉を思い出していた。

「肌が浅黒く、手が豆だらけの女など好まれません」



 ロドック王国で、暗殺のために技を磨いていた時代は、見た目にも気を遣っていた。ハキム帝の側女として近づき、彼を殺すのが目的だったから。
 だがサランを守るために槌を振るうようになってからは、そうした気遣いとは無縁になった。ハキム帝は、きっと今のラナを寝台へ迎え入れてはくれないだろう。
 それでも。
「それに、あなたはとても美しい。それ以上の理由はありません」
 とトゥリビダン大公は言った。

「はい」
 とラナは頷いた。ええ、受け入れます、わたしのような女でよろしければ、結婚しましょう、と。
 本当ですか、と目に見えてトゥリビダン大公は歓喜を示した。ああ、いや、本当ですか、だなんて疑ってすみません。
 「その……、ありがとうございます。わたしは、できれば豪華な祝宴を開催して、みなさんに祝ってもらいたい。その」とトゥリビダン大公は躊躇いがちに言う。「あなたがそれで良い、と同意してくれるのであれば、ですが」



 ラナはトゥリビダン大公の話の後半をほとんど話を聞いていなかった。おそらく一ヶ月ほどで結婚の準備が整うだろう、だとか、準備が出来次第連絡する、だとか、あなたの了解が得られてとても嬉しい、だとか言っていたような気がする。ただ、己の思考に没頭していた。
「アジは、なんて言うかな」
 既にハキム帝のことは頭から過ぎ去っていた。考えていたのは、アジズのことだ。
「きっと、喜んでくれるだろう」
 アジズはいつもラナのことを心配してくれていた。だからきっと、ラナが身を固めることになったと聞けば、喜んでくれるはずだ。

 未だ現実感は無かったが、ハキム帝がハルマールに駐屯しているという話を聞いたので、結婚のことを報告しに向かった。城に入ると、ハキム帝がじきじきに迎えてくれた。



「久しいな、ラナ」と彼は未だ内装がカーギット式のテーブルに、ラナを招いた。「そうそう、おれが留守にしている間に、アカダン卿から、このハルマールを守ってくれたらしいな。礼を言うぞ。おまえは美しいだけではなくて、戦にも長けているな」
 などというハキム帝の言葉を受け流して、ラナはトゥリビダン大公と結婚することになった旨を告げた。

「ほう」

 ほう。彼がそう呟いて黙ってしまったので、ラナは続きの言葉を述べるかどうか迷った。
「あの、それで、ですね」躊躇はしたが、ハキム帝が黙ったままだったので、ラナは結局口を開いた。「トゥリビダン大公はまだ領地を持っておりません。シャリズを奪還して後、その近傍の村々の領主がまだ決まっていなかったと思います。それで、カラフ城近くのラシュディの村をトゥリビダン大公に与えていただければ、と思いまして………」

「なるほど」

 なるほど、とハキム帝は言った。なぜかラナは身構えてしまった。
「なるほど。おまえはバリーエ、オブス城、ウズガと3つの領土を持ってはいるが、夫のほうが領土をひとつも持っていないというのでは格好がつかないからな」
「あの、もし領土が足りないようなら、わたしの治めている土地を彼に譲っていただければ……」

「トゥリビダン大公には」


 ハキム帝の言葉には、異様な力強さを感じた。
「トゥリビダン大公には、彼の功績に値する領地を宛がう、とおれは言うつもりだ」

 やけに婉曲的な言い回しであったが、有無を言わせぬ圧迫感に、ラナはとりあえず頷いた。



 トゥリビダン大公が反逆罪を問われて国を追われ、ノルド王国へと亡命したという報せを聞いたのは、それから僅か一週間後のことであった。


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