「Sumika、おい、ちゃんと部屋の中に入ったか?」
 とFrag Granadeを取り出して声をかけてくるSiに対して、だいじょうぶ、と返してやる。「ちゃんと入ってるよ。Rexも。Siこそ、逃げ遅れないようにね
「解ってる」
 Siは通路と扉との境界に立ち、手榴弾を構える。狙うは僅かに空気が揺らぐ、可燃性瓦斯の噴出口。



 SiとSumikaは、Vault 22の植物を焼き尽くすために行動していた。


 こうなったのも、Keelyと出会ったためだ。だがSiもSumikaもこの緑色の世界にはほとほと嫌気が差していたから、彼女がいなくとも、Vault 22の破壊工作を企てていたかもしれない。Sumikaは、さすがにそれは、と言って止めたかもしれないが。


 KeelyはVault 22の壁に空いた穴から続く、洞窟の中にいた。洞窟の中、Giant Mantisなどに囲まれて身動きが取れなくなっていたらしい。
 Siは当初、Keelyを死体かと思って驚いてしまった。というのも、彼女がGhoulだったからだ。それくらい教えておいて欲しかった、とSiは思う。

「NCRか。あんた、ひとりかい? 喋っている声が聞こえたけど……。若い女の子みたいな。気のせいだったかな」


 Keelyには、洞窟に反響するやり取りが聞こえていたらしい。Sumikaの声も。彼女の生態兵器としての機能、すなわち認識の無力化は、基本的に接近している対象を目標とする。だから、目には見えないのだが、近づく前の彼女の声は聞こえたらしい。しかし、今はすぐ傍らに居るので、だんだんと自分の記憶が怪しくなっていることだろう。
「犬の鳴き声だろう」
 とSiは誤魔化した。Sumikaが憮然とした顔をしているだろうが、妖精の目を失ったSiには見えない。

 Keelyに、Angela Williamsに頼まれて探しに来たのだと告げると、「ああ、あの娘は良い娘だね。あんな杓子定規な男の処で勤めるなんて辞めちまえば良いのに」という反応があった。
 SiはKeelyを手当てし、歩けるようにした。先導するので、外に出るよう促すと、Keelyは首を振った。
ここの植物をどうにかしなくちゃあいけない。そのためにも、あんたの助けが必要なんだ。悪いけど、もう少し協力してもらえる?」
あれをもう見なくて良いのなら、なんでも協力する」
 とSiは一も二もなく応じていた。恐怖もあったが、あの植物怪人がVaultの外に出れば、人々に迷惑をかけるだろうという危惧もあった。

 KeelyとSiたちは、洞窟を出て研究室に向かった。
「このエレベータ、あんたが修理したの?」
 と、途中、エレベータに乗ったときにKeelyが言った。


「そうだが」
「悪くない。悪くないね。あんた、NCRなんか辞めて、修理工になったら?」
 Siは肩を竦めた。そのつもりだ、とは言わなかった。

 研究室に到着したKeelyは、あの緑色人間、Spore CarrierVault 22にて研究開発されていた人体に有害な胞子に感染した結果である、とKeelyは言った。
「おい。ちょっと待て。人体に有害って………、おれもあの緑色になっちまうってことか?」
その心配はないよ。あんた、Vaultに来てせいぜい数時間程度しか経っていないだろう? 適切な環境下じゃなけりゃあ、その程度の時間じゃあキャリアにはならない」
「ほんとだろうな」
そんなに感染力の強いものじゃないから、大丈夫だって。それでね……」とKeelyは言葉を続ける。


 如何に感染力が強くはないとはいえ、この胞子をこれ以上ここに放置しておくことはできない。時間をかければVault周辺の人間や動物を汚染する必要がある。
 彼女は可燃性のある瓦斯を用いて植物の胞子を焼き尽くす作戦を提案した。ただし瓦斯への点火を遠隔操作で行うことはできないため、火付け役が必要であった。それがSiだ。Siは適当な爆発物を持っていなかったため、KeelyからFrag Grenadeを借りた。

 地下5階、サーバー室の隔壁はしっかりしており、通路で爆発が起こってもびくともしないはずだ。
 Siは入念に手順を確認してから、Frag Gragedeのピンを抜き、投げた。すぐさまサーバー室に逃げ込み、隔壁を降ろす。


 強化硝子越しにものすごい爆音が聞こえ、炎が走っていく様が見えた。可燃性瓦斯の噴出孔は閉じられ、炎はすぐに消えた。どうやら成功したらしい。Siは研究室に戻り、Keelyとハイタッチした。

「あとは」とKeelyがコンピュータのキーを叩く。「この研究結果がまた利用されないよう、データを消去するだけなんだけど……、あれ、別の記録媒体にデータがバックアップされた形跡があるなぁ」
 彼女の視線はSiへと注がれる。いま気付いた、というわけではなかろう。Ghoulは老練だ。Siがデータをダウンロードしたということには気付いているに違いない。Siは正直に、Hildrenに頼まれてVaultの研究データをダウンロードしに来たということを話した。


「成る程、あの男がしそうなことだね。Pip-Boyを出して。データは消去させてもらう」
「そりゃ困る」
 SiはMcCaran基地を訪れ、Hildrenから依頼をされた経緯を説明した。
「なるほど、難民キャンプのためにね。顔に似合わず、親切なことだね」とKeelyは感心した口調で言う。顔に似合わずは余計だ、とはSiは言わなかった。「じゃあ……、あんたがデータサーバに辿り着く前に、わたしがデータを消去したってことにすればいい。あの男はそれで、あんたのことはどうでも良くなって、見積書でも受領書でも何でも書いてくれるだろうから。わたしのほうでも、あいつに連絡はしておくよ」

 果たせるかな、McCaran基地に戻ると、既にHildrenにKeelyから話は行っていた。彼はSiを疑っていたが、それ以上にKeelyが研究成果を横取りしたのではないかと疑っているらしく、おかげで納品書の受領のサインは簡単に貰えた。Angela Williamsには、涙を流して感謝された。


 Crimson Caravanに報告をすると、Alice McLaffertyは満足そうに頷いて、既に食料の輸送は始まっているので、一両日中にはBitter Springsに届けられるだろう、という返事が得られた。
「早いな」
「そりゃあ、簡単な仕事ですからね」とAliceは薄く笑う。「やり遂げてくるだろうとは思っていました。それなら、商売は早いほうが良い」
言うほど簡単ではなかったが……、まぁ、感謝する」
「感謝してるなら、もう少し手伝って欲しい仕事もあるんですけれどね。協力してもらえる?」
「それは仕事の募集をしているのか? それとも脅迫しているのか? 生憎と、忙しい」
「すぐにじゃあないわ」とAliceは遠回しに応じた。「暇になったら来てもらえる? 十分な報酬は約束するから」

 SiはCrimson Caravanを出て、以前訪れたForlorn Hope基地やGolf前線基地へと足を向けた。Forlorn Hope基地では記憶に新しい”Restoring Hope”作戦でSiは八面六臂の活躍を見せ、またGolf駐屯地では愚連隊に近い兵士たちを更正させてやったことがある。そうした経緯から、それぞれの基地でも人員が苦しいにも関わらず、Siの頼みを受け入れてくれた。



「やっぱり、人助けはしておくものだね」とSumikaが嬉しそうに言う。

 SiとSumikaはBitter Springsに戻った。Markland大尉に本を届けると、彼はSiの手を両手で握り締めて喜んだ。


 また、Gilles大尉には食料と兵士増員の目処が立ったということを告げた。
「わたしが何度頼んでも駄目だったのに……、いったいどんな魔法を使ったんですか?」
「人助けはしておくもんだ」
 Siがそう言うと、Gilles大尉はきょとんとした表情になった。
「兎に角、良かったです。助かりました。本当に、ありがとうございます
 とベンチに座り、Gilles大尉は大きく息を吐いた。まだ若い女性将校だ、この難民キャンプを守り続けてきた疲労が表面に出てきたのだろう。
「食料は明日には届くと思う。兵の増員は、少し時間がかかるかもしれんが、まぁそれまではおれとBooneが居る……。そうだ、Booneは何処に行った?
「彼なら、Coyote Tailです。南の小さな丘の処です。朝から晩まで、というか、一日中、あそこにいます」
 そういえば、別れたときもそんな名前の場所に居るとか言っていたか。彼はいったい、何をやっているのだろう。
「たぶん、キャンプを守ってくれているのだと思います」とGilles大尉は応じた。「あの方のおかげで、子どもたちも避難民も、それに兵士も、安心しているようです」



 SiがCoyote Tailへ向かうと、確かにBooneの姿があった。狙撃銃のスコープを覗いているというわけではないが、いつでも銃は撃てる状態にしてあり、その姿は敵の到来に備えるスナイパーそのものだった。
「ここがCoyote Tailか」とSiは声をかける。「ここに何かあるのか?」
Canyon 37。それが作戦時のNCRの呼称だった。そしてGreat Khansの唯一の退路だった」とBooneはぴりぴりした殺気そのままに語り始めた。「おれの部隊は当時、本隊が攻撃を仕掛ける間に、その逃げ道を塞ぐために駐屯していた。動くものはすべて射殺せよという命令が出ていた。悪いことに本隊は攻撃を仕掛ける前に見つかり、Great KhansはこのCanyon 37を越えるために徒党を組んでやって来た。銃声でそのことが知れたため、本部に作戦内容の確認を求めたが、無駄だった。おれたちは、弾丸を撃ち尽くさなくてはならなかった

 Siにはその先の出来事が推測できた。
 Booneはまさしく任務を遂げたのだろう。動くものを撃て、という命令を。Great KhanとBitter Springsの民間人を区別することは容易ではなかっただろうし、人質に取られる可能性もある。とすれば、判別を付けずに撃ち殺すほうが簡単だ。動いたものから撃っていけば。
「軍隊が求めているのは兵器だ。戦うための兵器だ。考えない兵器だ」とNCRに保護されたばかりの頃、Siは保護者代わりの少尉にそう説明された。「だがきみには、考えない機械になってほしくはない」

 話し込んでいるうちに陽が暮れ、辺りは暗くなっていた。
「飯でも食いに行くか」
 とSiはBooneを誘ったが、彼は首を振った。
「あんた、身体壊すぞ」
「違う」
 Booneが応じたところで、Siもようやく気付いた。Bitter Springsに近づきつつある気配に。


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