StripからMcCaran基地。地図上で見ると大きく離れているのに、乗り込みさえすれば寝ていれば着くのだから、まったく列車というのは文明の利器だ。


 といっても、愉快な旅行というわけではないのだから、寝ているわけにもいかない。Crocker大使からも、自分は意見を出すことしかできず、軍に身を置いている以上はMoore大佐に報告しなければならない、なのでできるだけ早くHsu大佐のところに行ってきてほしい、と言われている。


 Hsu大佐は以前と変わらず職務に追われていた。眉間の皺が、いっそう険しく、疲れの色が見える。
 彼に頼みごとをするのは、Bitter Springの件があるので、二度目になる。断られるかもしれない、と思ったが、Hsu大佐は快く、Freesideの件への協力の件を了承してくれた。
「いいのか?」
 と、珍しく遠慮があるのか、Siはそう聞き返した。
Freesideの問題はいつかは解決しなくてはならないことだからな……。物で釣ると言うとあまり良い言い方ではないが、食うや食わずやの人間が多いFreesideでは悪くないだろう。とりあえず補給物資だな。Kingsの頭に伝えてくれ。NCRにはFreesideの市民に水と食料、それに電力を与える用意があると」
 助かる、とSiは頷いた。


「ところで、きみはCrocker大使の使いで来たんだよな? たしか、彼が任ぜられているその件は、揉めたらMoore大佐に指示を仰ぐことになっていたはずだが……」
「ああ、それはそうなんだが……、対処するにはあんたのほうが適切だろうとCrocker大使は言っていた」
「ふむ」とHsu大佐は頷いて、考え込む表情になる。「それは不味いかもしれないな。Moore大佐はこのところのFreesideの事情に苛立っている様子だった。おそらくCrocker大使はできるだけMoore大佐の介入を避けようとしているのだろうが……、そう上手くいくかどうか」
「とりあえず、おれはすぐにStripに戻る」
「ああ、急いだほうが良い。物資の件は任せてくれ」

 急ぐとはいっても、SiやSumikaが尽力したからとて、列車の速度が上がるわけではない。
 出るときには午前中だったが、Stripに戻ってきたときには既に午睡に頃良い時間になっていた。SiはCrocker大使のいるNCR大使館に向かいかけ、身を翻してStripに向けて駆けた。Crocker大使やHsu大佐が言うように、Moore大佐なる人物が真に強硬派なら、いちいち大使館で伺いを立ててからKingsを殲滅するなどということはすまい。まず初めに、行動を起こすはずだ。


「なんか、昼間だっていうのに変に静かだね………」
 とSumikaが不安そうに呟く。言うとおりで、空気がいやに緊張している。
 その原因は、Kingsたちの根城である演劇学校の前まで来て、すぐに明らかとなった。


 演劇学校前にはNCRの兵士が番をしていた。近づいてくるSiに対し、Kingsの一味だと思ったのか、はたまた無謀な観光客と思ったのか、警戒した様子で銃を向けてくる。
「Rangerだ」
 SiはRangerの証左となる、刻印が為されたHunting Revolver +を示してやると、NCRの一般兵たちは急に姿勢を正して敬礼をした。
「Rangerでしたか……」と兵士のひとりが嘆息し、遠慮がちの様子で口を開く。「して、何のご用件で?」
「Kingに用がある」
「しかし、現在この場所は封鎖中で………」
作戦行動中だ。悪いが、通らせてもらう」
 とSiは無理矢理に兵士を押し退け、演劇学校の中に入る。一刻を争う事態だからか、特にSumikaも咎める様子は見せなかった。

 演劇学校は、いつもの気楽な雰囲気とはまったく異なった空気を孕んでいた。
 ホールへ向かうと、その原因が明らかとなる。NCRの兵士たちは内にも及んでいた。しかも、外の警備の人数の比ではない。しかもKingsもNCR兵士も殺気立っており、さすがに銃を構えているわけではないが、いつホルスターに手を伸ばしてもおかしくはない、一触即発の状況といって差支えがないだろう。
(幸いなのは、まだ一発も撃たれていないことだ)
 怪我人も死者も出ていないなら、どうとでも収めようがある。


 突然の闖入者に驚く様子のNCR兵士とKingsたちを余所に、Siはホールの演台の前、いつもの特等席の近くに立っているKingのところへ駆け寄った。彼の傍らにはPacerもいた。
「あんたか」とKingのほうでも気付き、Siに視線を向けた。「急にやっこさんらがやって来て、こんなふうに軟禁されちまった。こんな男臭い空間は懲り懲りなんだ、どうにかしてくれ」
 King曰く、NCRの兵士たちはRangerの名を出したら止まったという。しかし兵士たちはみな、Siの見覚えのない顔ばかりで、おそらくは通常はHooverダムに詰めている兵士たちだ。Crocker大使が、Rangerが作戦中なのでその行動を待つようにと手を回したのかもしれない。
「話が伝わってなくて悪かったな」とSiは周囲のNCR兵に聞こえるように言ってやる。「NCRは戦いを望んでいない。こちらには食料と水、電力をFreesideに分け与える準備がある。それについてはMcCaran基地のHsu大佐に問い合わせてもらえれば判る。この申し出を受け入れるかどうかは、あんた次第だ」
「水と食料を受け取るんなら、代わりにFreesideとNCRの確執をどうにかしろってことかい」
「どうにかしろ、とまでは言わんが、検討しろ」

「こいつらと取り引きする必要なんかねぇ!」
 といつものように割り込んできたのはPacerである。
「Pace、落ち着けよ」とKingが制す。「ああ、おたくの言いたいことは解る。急に兵隊に押しかけられてる状況で、穏やかな取り引きなんていう状況じゃあねぇってな。だから、解るだろう? もうやんちゃはやってられないらしい。取り引きの内容も悪くはねぇ。Freesideじゃあ、どこも物は不足してる。貰えるもんは貰っておこう。だからな、Pace。下手なことはやってくれるなよ」

「下手なことはするな、だ?」
 Pacerの瞳の色が変わったことに、Siは気付かなかった。周囲のNCR兵や、Kingsたちが不用意な行動を起こさないかだけを心配していた。
「だったらおれは、やりたいようにやらせてもらうだけだ」
 Pacerが銃を抜くと同時に、SiもホルスターからLuckyを抜いた。彼が撃つよりも、Siが撃つほうが早い。



Perk: Quick Draw (抜き撃ちの速度上昇)

「Si、右に跳んでっ!」
 狙いをつけて引き金を引こうとするその一瞬に、Sumikaの言葉通りに跳んだのは、この11年間、”妖精の目”として生きてきた修練の技といえた。
 Siが一瞬前までいた場所に、無数の弾丸が突き刺さった。Pacerだけではなく、彼と同様に黒い服を着た男たちがリヴォルヴァーやサブマシンガンを手に手に蜂起した。
「入口側に2、壁際に3、奥に1。サブマシンガンが5であとリヴォルバー!」
 とSumikaが叫ぶ。Siはテーブルを蹴倒して盾にする。

 ホールは混乱に陥っていた。いくらNCRの装備のほうが良いとはいえ、仲介役であるSiがやって来て、Kingsの代表者であるはずのKingが提案を呑みかけたところでのこの事態である。
「おまえは隅っこに隠れてろ」
 とSiはSumikaに告げる。彼女の索敵は、この混乱状況では役に立たない。いくら彼女が小さいとはいえ、これだけ小さな部屋で撃ちあっていては、流れ弾が当たるやも解らない。


 Siが己の危険も顧みずにテーブルから飛び出したのは、Pacerが銃を構えるのが見えたからだった。彼の銃は、いまやSiを狙うのを諦めたのか、何を思ったか、Kingに向いていた。もはや自暴自棄になったのか。
「Pacer!」
 SiはLuckyを抜いた。構える。


 引き金を引くと同時に、Pacerに無数の弾丸が突き刺さった。Siの弾丸だけではない。反撃に出たNCR兵士たちの弾丸だった。彼は一瞬にして絶命した。


 Kingsの演劇学校は、そのままKingsのものとして残された。利用価値がないからだ。先日のPacerの反乱とそれに対するNCRの鎮圧の結果、演劇学校は半壊の憂き目にあった。
「おれにはPacerが死んだことが信じられん」
 その演劇学校のホールで、以前と変わらずに座っているKingの姿があった。


「あんたは、自分は善いNCRだって言ってたよなぁ」とKingは独り言のように言う。「だが、NCRに善いも悪いもないじゃねぇか。結局、Pacerは殺されちまったし、Freesideが良くなったとも言えねぇ

 上下水道の整備、食料の配給、怪我人や病人の手当て。住民の管理リストの作成と登録番号の配布。子どもへの教育体制の確保。税収制度の制定。管理の徹底。法度の制定。犯罪者の取り締まり、裁判、刑罰、処刑。
 NCRは正義の集団ではない。悪の集団でもない。

 Hsu大佐は確かにFreesideの市民を考えてくれていた。Siが間に合わず、Moore大佐なる人物が対処していたとすれば、まさしく戦争が起きていただろう。Hsu大佐の補給物資の提供により、全面戦争は回避された。
 だがFreesideがNCRに支配されるようになった、という事実自体は変わらないし、変えられない。
 Kingもそれを理解していたはずだ。だから抗っていた。NCRとKingsが一触即発の状況になったあの日、しかし彼はNCRの提案をすべて受け入れようとしたわけではなく、とりあえずその場を切り抜けようとしていたのだろう。結果的には、Pacerの行動によって、それはおじゃんとなったわけだが、どちらにせよ、最終的には同じことだっただろう。

 SiはKingのあらゆる言葉を無視し、背を向けた。撃たなかったら、おまえはPacerに殺されていたのだ、などと言っても、無駄そうだ。何も言わないでやることが、SumikaにはSiの優しさなのだと解った。

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