天国の前に/05/555日目 蠍、復讐を果たされること、ならびに復讐を果たさざること

1458年10月28日
555日目
蠍、復讐を果たされること、ならびに復讐を果たさざること

Name: Rana

Sex: Female
Level: 32
HP: 55
Attributes: STR12, AGI16, INT14, CHA24
Skills:
【STR】鋼の肉体4, 強打4, 豪投4
【AGI】武器熟練4, アスレチック5, 乗馬5, 略奪4
【INT】訓練5, 戦略6, 経路探索1, 観測術2, 荷物管理2, 治療2, 手術1, 応急手当て1, 技術者1
【CHA】説得3, 捕虜管理5, 統率力8
Proficiency: 長柄武器268, クロスボウ228, 投擲160
Equipment: 貴婦人の頭布, ブラス・マムルークアーマー, 壮麗なアワーグラスガントレット, 黒金のブーツ
Arms:名匠の手による戦槌, ひび割れたアーバレスト, 鋼鉄のボルト, 投擲用戦斧
Horse: 重いサランのノーブルウォーホース
Companions: ユミラ, アルティメネール

 かつてロドック王国領であったヴェルカ、その近隣にあり、いまはヴェルカとともにサラン朝領となったカエザの村にロドック王国の軍勢が近づきつつあるという報告が入った。


「70人程度の、小規模の軍です」
 という報告を聞きながら、ラナは出立の準備を整える。ヴェルカ周辺は未だ土地の分配が終わっておらず、村は守る者がいないという状況だ。ヴェルカを治めるラナ以外に、略奪から村民を守れる者はいない。
「守備兵を除いて……、騎馬兵で180人ほど準備させてください」

 夜明け前だったが、ラナは全て騎馬で構成された総勢約190人の部隊で出発した。
 しばらくしてから、物見の兵が敵軍を見つけたという報告があった。小高い丘に登り、ラナはその軍の様子を眺める。
二匹の獅子ですな」
 と手を丸めて絞りを作り、遠方を見渡してアルティメーネルが言った。

(またあの人だ………)
 二匹の獅子はフライチン女伯の紋章だ。彼女がまたラナのところへやって来たのは、果たして偶然なのだろうか?
 200人近い騎馬軍の接近は隠せない。巨大な軍勢を感じ取ったことで、フライチン女伯の軍はロドック領へと撤退し始めた。彼女の部隊は、前回戦闘したときと同じく7、80人程度の小規模な部隊なのだから、当然だろう。
「追いますか? どうしますかね」とアルティメーネルが問う。
「村は守れたし、このまま見逃したほうが………」
 と進言するユミラに対し、ラナは言い放つ。「追いましょう」


 巨大な騎馬軍が一路駆ける。小さな歩兵隊を蹂躙するために。
(あの人を殺さないとわたしは前へ進めない気がする)
 ラナに追撃を決断させたのは、そんな心の奥底から湧き上がる思いだった。
 村を貴族によって破壊され、行く当て所のないラナを拾ってくれたのは、フライチン女伯だった。食べ物、服、家、生きる意味、すべて彼女がくれた。ラナはその彼女を裏切っている。
(だから殺さなければならない)
 論理的ではない思考が渦巻いている。ラナの本能だった。それを作ったのも、やはりフライチン女伯だ。ラナを作ったのは、すべて彼女なのだから。

 王を殺すために放たれた本能のままに、元の蟲毒の壷に戻ろうとした蠍を待ち受けてみたのは、己が毒針を越える軍勢であった。夜明けの光を受けてはためく軍旗に誇るは勇猛な熊。ロドック王国、グラヴェス王の軍勢である。
 規模は約300。フライチン女伯の軍と合わせると、350人を越える大規模軍に成り果てた。


(誘い出された………!)
 それに気付いたときには、既にして遅かった。

野戦
サラン朝 対 ロドック王国
サラン朝 189名
ラナ

ロドック王国 353名
グラヴェス王
フライチン女伯

結果 敗北(捕虜カウント 1→2)


 女ながらに戦争に身を投じてから、敗戦というものは何度も経験している。
 だがその多くは、不利を認めての戦略的撤退だった。
 今回は違う。ラナの騎馬隊は、潜んでいた歩兵隊によって完全に包囲されていた。壊滅作戦である。
 これまでのようにはいかない。ロドックの王を守る兵は精兵であり、その兵士たちは対騎馬戦の熟練者である。ラナの騎馬兵がは刃が幅広のロドック特有の長槍、パイクで貫かれた。
 ラナは包囲の一陣を切り崩すために、鍛え抜かれた戦槌を手に、兵の群れへと突っ込んでいったが、その結果とて、ほかの兵と同じであった。



 害虫や日射を防ぐための天幕が並んでいる。数多く天幕が並ぶ、その中央の幕の中にラナはいた。自由に動ける身ではない。両手足を錠で拘束されて、しかも1m四方しかない小さな檻に閉じ込められているのだから、身動きの取りようもない。武器もなければ、服もない。逃げられないということらしい。
 天幕の外で話し声が聞こえる。聞き覚えのあるその声は、ひとつはフライチン女伯のもの。そしてもうひとつはグラヴェス王のものだ。

 天幕の中に入ってきたのはグラヴェス王だけだった。ラナは狭い檻の中、身を捩じらせてグラヴェス王の視線から己が身を隠そうと努力した。
「美しいな、ラナ」
 とグラヴェス王がにやにやと笑って言った。いつだっただろう、確か1年半ほど前にも同じような言葉を聞いた気がする。
「やはりこのまま処刑するには勿体無い。どうだ、考え直したか?」
 グラヴェス王が言うのは、ラナにサラン朝を裏切れという話である。ようは元の任務に戻れと、ハキム帝を殺せと、そう言いたいのだ。でなければ、己の妾腹になれと。

 檻に伸ばしてきたグラヴェス王の手を掴むと、彼の顔は驚愕に包まれた。当たり前だろう。ラナは両手両足ともに拘束されていたはずなのだ。だがその程度、己の身体のことを労わらないのであれば、暗殺者として育て上げられたラナにとっては障害にもならない。
「あなたはこの牢を開ける鍵を持っている」とラナはグラヴェス王の首を絞め、牢越しに耳元で囁く。「わたしはあなたの首を折れる」
 グラヴェス王は己が腰元を指差す。ラナはグラヴェス王を気絶させ、彼の腰から鍵を奪って檻を出た。グラヴェス王の身ぐるみを剥いで身を隠す布を手に入れ、天幕の外に出た。
 フライチン女伯がいた。

 時刻は明け方。起きている兵の数は少ない。フライチン女伯の周りにも兵の姿はなかった。
 ラナは彼女の喉元に指先を置いた。
「あなたは嘘吐きじゃない。本当のことを言った。でも誠実だったわけじゃなかった」
 とラナはフライチン女伯に言い放った。
 女伯は、王を殺せと言った。ラナの村が襲われたのはハキム帝の怠慢だから、彼を殺せ、と。それ自体は間違っていないのかもしれない。だが、彼女はその先のことを何も教えてはくれなかった。
 たぶん、王を殺しても無駄だ。
 王を殺しても、次の王が産まれる。国とは、ふつうの生き物とは逆なのだ。頭を殺しても、死なない。

 民がいて、土地があって、想いがある。そこに国が産まれる。
 だから王を殺しても、戦争は止まらない。では戦争を続けるしかないのか。そうかもしれない。結局、ラナの小さな手で守れるのは僅かな存在、まさしくその手で包める一握りだ。

 ラナが思い浮かべたのはアジズのことだった。
 ハキム帝から、もう会うなと言われたアジズ。ラナのことを何一つ疑わずに慕ってくれたアジズ。
 彼は優しい子だ。
 ラナは彼を守りたい。
「厩の位置を教えてください。それと、わたしの仲間が捕らえられている場所を。正直に語れば、ここは生かします」
 そのためなら恐れなど、蠍としての本能など何処へ放ってしまっても良い。


 ラナはフライチン女伯から、ユミラとアルティメーネルがペーチ城に捕らえられていることを聞き出したのち、一路城へと向かった。
 武器を取り戻し、仲間を取り戻し、ラナは砂漠に戻る。また蠍になった。

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