1459年1月10日
629日目
蠍、蟲毒から抜け出すこと

Name: Rana

Sex: Female
Level: 34
HP: 55
Attributes: STR12, AGI17, INT14, CHA25
Skills:
【STR】鋼の肉体4, 強打4, 豪投4
【AGI】武器熟練4, アスレチック5, 乗馬5, 略奪6
【INT】訓練6, 戦略6, 経路探索1, 観測術3, 荷物管理2, 治療2, 手術1, 応急手当て1, 技術者1
【CHA】説得3, 捕虜管理5, 統率力8, 取引1
Proficiency: 長柄武器278, クロスボウ239, 投擲171
Equipment: 貴婦人の頭布, ブラス・マムルークアーマー, 壮麗なアワーグラスガントレット, 黒金のブーツ
Arms:名匠の手による戦槌, ひび割れたアーバレスト, 鋼鉄のボルト, 大袋入りの投擲用戦斧
Horse: サランのノーブルウォーホース
Companions: ユミラ, アルティメネール

「お命頂戴します」
 突如として城壁に現れたその蠍を認識できたものがいるのだろうか?


 いる。
 獅子の紋章を掲げるハルラウス王の護衛たる王宮衛士隊は、過酷な戦場を潜り抜けた生え抜きである。彼らは蠍の襲撃を、襲われた王自身よりも迅速に見て取るや、その長剣にて蠍の戦槌を受け止めた。

「ラナ、これ以上は………!」
 城壁の上の戦況を見て、下にいるユミラは叫ぶ。ラナによる暗殺が失敗した以上、このウェルチェグ攻めはもう無理だ。撤退するしかない。 

ウェルチェグ攻城戦
サラン朝 251名
ラナ

スワディア王国 485名
ハルラウス王
ラファルド卿
グラインワッド卿
ネラグ伯爵
アザドゥン伯爵
ウェルチェグ守備隊

結果 撤退

 もともと、無謀だったとは思う。
 現在サランはスワディア、ベージャー、そしてノルドの3国と戦争をしている。
 この中でもっとも脅威なのは、39の領土を持つノルド王国。次に21の領土を持つベージャー王国。そして国力がもっとも弱いのが、8の領土しか持たぬスワディア王国である。
「まずは引き篭もっている獅子を殺します」
 ラナはそう言って、スワディア攻めを決めた。スワディアは、かつてはカルラディア大陸中央部にて領土を席捲していた国であったが、現在は旧ベージャー領の半島に押し込められている形である。ラナはそのスワディアの数少ない領土の中でも、もっとも人口が集中しているウェルチェグ攻めを決めたのだ。


「最近、ラナは焦りすぎている」
 ユミラは思う。もともと、彼女はウェルチェグ攻めに反対だった。現在の、撤退という結果を見ても、当たり前だという気にもなる。なにせ相手はこちらの2倍近い兵力なのだ。勝てないのが当たり前だ。命があったのが幸いだった。

 ユミラは、2年近く前にラナに助けられた。そのときはラナがロドック王国の暗殺者であることなど知らなかったし、サラン朝にどうにかして潜り込もうとしていることも知らなかった。彼女はユミラの経歴を利用するために助けたのかもしれない。
 それでもユミラはラナのことが好きだった。だからこうして、己が存在とはかけ離れた軍隊という場にラナが籍を置くようになっても、彼女についている。

「明日、もう一度襲撃をかけます」
 今日の戦闘で兵力は削いだので、次こそは街を奪い取れるはずです。ラナはそんなふうに無謀なことばかり言う。だが、そんなことは不可能だ。
 今日の戦いとて、ほとんど戦果を挙げたのはラナのみなのだ。彼女は矢を受け、打撃を受け、それでもスワディアの騎士たちの首級を挙げた。ハルラウス王までその毒針は届かなかったが。
(このままじゃ、ラナが壊れちゃう………)
 自分がどうにかしてラナを止めなければ。そう思って進み出たユミラの耳に、野営地の天幕が開く音と、兵士が駆けて来る足音が聞こえた。見れば、汗をびっしょりとかいた斥候と思しき兵士が天幕に入ってきていた。
「ラナさま……、ロドック王国とカーギット・ハン国が相次いでサランに宣戦布告を行いました!」
 と彼は告げた。


 サランは既にカルラディア大陸の2/5以上を獲得し、覇権に王手をかけつつある。
 その大国を玉座につけぬため、他の4国が動いた。彼らは同盟を組み、停戦をし、ただサランの道を防ぐために立ち上がったのだ。

カーギットの騎馬隊がダルヤン城に侵攻、守備兵は虐殺され城を奪われました」
 と、さらに斥候は告げる。
 すぐさまラナは野営地を畳む旨を全軍に出して言った。
「ウェルチェグ攻めは中止です。ダルヤン城に向かいます」

 ラナがその指示を出した理由は、ユミラにも理解できた。ダルヤン城はカーギットとサランの国境にあり、シャルワ城のすぐそばだ。すなわち、バリーエにも近い。
 ダルヤン城を放置しておくことは、バリーエにいるアジズをも脅威に曝すことになる。




ダルヤン城攻城戦
サラン朝 250名
ラナ

カーギット・ハン国 214名
ダルヤン城守備隊

結果 勝利


 電撃的な作戦であった。
 ウェルチェグ攻めで減った兵士は村々で掻き集め、殆ど寄せ集めの軍隊でダルヤン城を攻めたてた。敵兵の多くは、もとはサランの民であり、敵として目にするのが辛かった。

 だがそんなふうに悠長なことを言っていられるのも、再度領土を奪うために足を伸ばしてきたカーギットの騎馬隊に囲まれるまでの話である。
 総勢、800以上。



 800の人と800の馬、合わせて3200の眼がダルヤン城を囲んでいた。カーギットは、本気だ。本気でサランの覇道を阻むつもりなのだ。彼らにとっては、当たり前のことだろう。

 ダルヤン城を奪い返すため、ラナたちの軍は多くの兵を死なせてしまった。残された兵士は、100と少し。
 ラナは目を瞑り、深呼吸をする。
 やがて目を開いて言う。
「降伏の使者を立ててください」

 しかし使者に対するカーギット・ハンの回答は「否」の一言であった。降伏を認めないと、そういうことだ。

「サランはやりすぎましたな」
 と顔色を変えずに、アルティメーネルが使者の回答を解釈する。いまや4大国は、強大になりすぎたサランを倒すことに心血を注いでいる。となれば、彼らの目的はこんなちっぽけな城などではない。降伏を認めて兵力を確保させるわけにはいかない。何より、彼らには真っ向正面から戦っても負ける道理などないのだ。


「すみません………」
 うなだれるラナに言葉をかけられる者がいなかった。いるとすれば、ハキム帝か、アジズ王子か、そんなところだろう。ユミラやアルティメーネルの言葉では、慰めにもなるまい。
 ほかにいるとすれば、ひとりだけ。

「ラナ!」
 男の声がした。
「助けに来たぞ、ラナ!」
 急いで城壁の上まで行くと、真っ暗闇のダルヤン城の門前に、軍勢を引き連れたひとりの男が立っていた。


 ムーニル公の兵130余名。ラナの隊の約110名と合わせれば、250程度になる。敵は850以上。圧倒的に不利ではあるが、篭城し続ける限りは全く勝ち目がない戦いではなくなる。
 ダルヤン城に突如として現われたムーニル公は、そう告げた。


「なぜ、ここに?」
「領地の周りを見回っていたら、敵影が見えただけのこと」
 とムーニル公はラナの問いに平素と変わらぬ様子で受け答える。戦の前に血気に満ちているわけではなく、戦いに怯えているわけでもなく、まさしく領地の周りを悠然と見回る、いつもの調子であった。
「ありがたい申し出ですが、お断りします」
 ふたりきりの会議の場で、ラナは夫たるムーニル公に頭を下げた。
「夜明けとともに攻撃があるはずです……、わたしどもが道を開きますので、お逃げください」
「カーギットの騎馬を相手に、どう逃げる?」とムーニル公は笑う。「それよりは、城に立て篭もって弓を撃っていたほうが生き残る目がある」

 やはり、覇気があるわけではない。自信があるわけでもない。なのに、余裕に満ち満ちている。
「ムーニル公さま………」
「何かな、わが奥方?」


 そう答えるムーニル公の身体の動きに、ラナは偽りの余裕を見て取った。彼は愚かしくも、この戦いで生き残れると思っているわけではない。彼はラナをひたすらに勇気付けようとしているのだ。助けようとしているのだ。

 ではなぜ彼は、自分の命も顧みずにラナを助けてくれようとしているのだろう。ラナにはそれが解らない。
 愛か。
 否、そんなはずがない。ラナとムーニル公は、婚姻して以来、一度として夫婦らしい契りを交わしたことがなかった。ラナは、彼が男色家なのかもしれないと疑ったほどだ。

 では名誉か。妻が死地にあるのに助けないとなれば、家名が落ちるとでも思っているのか。
 しかし彼の名誉はもともと戦をせずに自分の領土ばかり見回っている男として地に落ちている。いまさら名誉を気にするでもなかろう。

 どう考えても、彼がラナを助ける理由が解らない。
 そこまで考えて、彼はラナを助ける理由がなくても助けてくれる人間なのかもしれないと気付いた。

 ラナにとって、ムーニル公との婚姻は望まぬものであった。ハキム帝の決めたことであれば逆らっても仕方がないと、そう思っていた。
 だがムーニル公にしても、それは同じだったのではないだろうか。

 あるいは、これまでラナがムーニル公に領土をと進言しても受け入れられなかったのは、ムーニル公自身が拒絶していたからではないだろうか。そして、ラナに領土をと言っていたのではないだろうか。

「ラナは、なんでも自分ひとりでできると思ってる。自意識過剰だよ」
 ユミラの言葉を思い出した。ラナはすべて、自分だけでものを考えていた。相手の心など考えていなかった。

 思えば、ムーニル公は優しかった。
 出自の知れぬラナのことを妻として迎え入れてくれた。ラナがそのまま戦場に出ることを許してくれた。ラナが何か態度を見せれば面白いくらいにすぐに反応してくれた。
 ムーニル公は、ラナをけっして妻として扱わなかった。夜の陸みごともなく、ただただ傍にいてくれた。

 愛しているわけではない。利用しようとしていたわけでもない。
 ただただ、弱いものとして保護してくれた。
 彼の存在は、幼い日のラナが失い、フライチン女伯が新たに満たすこともできず、ハキム帝からも、アジズからも受け取れなかったものであった。たぶんそれは、親のようなものだろう。

ダルヤン城防衛戦
サラン朝 246名
ラナ
ムーニル公
ダルヤン城守備隊

カーギット・ハン国 861名
タンスガイ卿
ヒワン伯爵
ブルラ卿
アスガン卿

結果 敗北(捕虜カウント2→3


 カーギットの軍隊が列を並べて攻め込んできた。ラナは鍛え抜かれた戦槌を振るって応戦した。
 ブルラ卿を鍛え抜かれた戦槌で叩きのめし、返す刃で雑兵を薙ぎ倒したのが最後だった。
 迫ってきた黒塗りの鎧を纏った騎士に、蠍の毒針は届かなかった。


 ダルヤン城が落ちたという報せが伝わったとき、アジズはバリーエにいた。
 アジズはラナがダルヤン城を襲撃して奪還したことや、カーギットに徹底抗戦したことなど知らなかった。だから、ただいつの間にかダルヤン城がサランの領土になり、またカーギットのものに戻ったのだな、としか思わなかった。

 アジズはただ庭に出て、空を仰いだ。
 夜空に蠍の姿が見えた。あの蠍は、いつまで憎き戦士を追うのだろうか。だがいまは夜空に煌々と、すべてを照らすように輝いていた。

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