展覧会/『ラストクロニクル』/第3弾フレーバー考察




■襲来のイルルガングエ

 《疫魔の獣 イルルガングエ》。
 それが最初にアトランティカを襲った正体不明の存在、のちに災害獣という括りで呼ばれるものの名である。
 これは最初にイルルガングエの襲来を報告したリャブー族の言語で、「終末の目」という意味である。


3-081C 《遥かなる地の奈落監視者》
「アトランティカを襲った災禍の先鋒となったのは、巨大な赤眼を持つ疫魔の獣であった。それは最初北方の奈落が現れ……」
~「災禍の黙示録 序章」より~

 彼ら監視者のおかげで災害獣の存在をいち早く発見できたわけだが、ここでふたつ疑問が起こる。
 それは、なぜ遥かなる地の奈落に監視者がいるのか? ということと、なぜイルルガングエがほかの獣たちよりも早くアトランティカにやってきたのか? ということである。
 実をいえば、このふたつの疑問は同じ解答によって答えられる。

 そもそも遥かなる地という名前は、ほかに《遥かなる地の巨人》で語られているが、正しくはザルガンという名の場所である。
 《遥かなる地の巨人》のフレーバーでは、このザルガンが、かつて古戦場であったことを匂わせている。これはまた、《呪われた埋葬地》でも語られている。

3-095R 《呪われた埋葬地》
遥かなる地ザルガンでは、墓掘りはみな、呪われた地や古戦場がどこにあるのかを熟知している。間違った場所に穴を掘れば、文字通り「墓穴を掘る」ことになるからだ。

 ザルガンという場所は、かつては古戦場だったようだが、現在は墓地(というよりはゴミ捨て場か)になっているようである。
 《呪われた埋葬地》における「墓穴を掘る」の意味は、ゾンビが(自然に?)発生しやすいことと関連づけているのだと思われるが、ザルガンのもうひとつの特殊性についてはまた、《闇の魔穴》で語られている。

3-096C 《闇の魔穴》
「我々はどこから来て、どこへ行くのか? 前者はいまだ難問のままだが、後者の答えのひとつがここにあるな。」
~ザルガンの時空魔導師~

 つまり遥かなる地、ザルガンという場所は(土地柄なのか、それとも戦いのせいなのか)そもそも時空の破断が発生しやすい場所であり、それを監視するために奈落監視者という役職が存在しているのだ

 災害獣というものは時空の歪みを越えてやってくるものである。少なくともニルヴェスとエインハースに関しては、時空の歪みを越えてやってきたことが明言されている。
 そして5体の獣のうち、イルルガングエが最初にアトランティカに姿を現したのは、奈落に存在する時空の破断を利用したためと考えられる。

 いち早くアトランティカを襲来したイルルガングエは、バストリアの大地に病魔を撒き散らした

3-075U 《疫魔の眷属》
病を殺すものは、必ず同時にその病に触れることになる。

 触れれば命を奪うイルルガングエとその眷属に対し、バストリアは抗う術が無かった。
 しかし災害獣の脅威を受けることになったのは、バストリアだけではなかった。

■ニルヴェスの到来とアリオン結成

 災害獣は以下の順番で現れた。


  • 疫魔の獣 イルルガングエ(終末の目)
  • 猛り地の獣 ガラムドゥ(ガイラの秩序を打ち崩す者)
  • 壊嵐の獣 オグ・シグニス(シグニスの敵対者)
  • 邪光の獣 ニルヴェス(ヴェスに仇為す者)
  • 海魔の獣 エインハース(エン・ハの影)


 これらの災害獣に対して、もっとも大きな動きを見せたのはグランドールであろう。
 グランドールはイースラと同盟を締結し、討魔軍たるアリオンを結成したのだ。

3-022R 《アリオンの大決議》
この日、これまでアトランティカがその存在すら知らなかった白き災いの獣に、その名が与えられた。ヴェスに仇為すもの、「ニルヴェス」と。

 アリオンの結成は、ふたつの大きな意味を持つ。
 ひとつは、ひとつの国の災害獣を倒すためにふたつの国が同盟を組んだということ。
 もうひとつは、ニルヴェス撃退のためにイースラの軍備が手薄になったということ。

 戦乱の地であるアトランティカではあるが、共通の敵を前に同盟が締結されるのは珍しいことではない。特にグランドールならイースラとガイラント、というふうに他4か国のうちの2か国に対しては比較的親和性があり、協力体制を作ることもある。
 こうした協力体制は第2弾の同盟兵としてカード化されている。

 ただし、今回の場合はケースが特殊で、対抗する相手が《邪光の獣 ニルヴェス》なのだ。
 もしこれが、たとえば共通の敵であるゼフィロンに対抗するため、だとかなら同盟を組むのは理解できる。
 しかしニルヴェスはあくまでグランドールの地に出現した災害獣である。イースラとは何の関係もない、とまではいえないが、少なくとも最初のうちはグランドールの様子を伺っていればよいはずだ。
 にも関わらず、イースラの皇女である《海凪の皇女 ナナツキ》はグランドールの《聖王子 アルシフォン》や《白森の戦姫 ミーウ》とともに積極的に活動し、アリオンを結成した。
 これはなぜなのか?

 もっともありそうなのは、あとあとの軍事的な協力を取り付けるためだ。
 そもそも災害獣に関してはイースラの巫女たちがある程度予知していた。

3-098C 《アリオンの巫女》
「ああ、見えます……災いの獣たちとの戦いが、このアトランティカに新たなる大禍をもたらすのが。でもいずれ、ふたつの魂の光を持つものたちがきっと……」
~清流の巫女の未来視~

 《アリオンの巫女》が語る「ふたつの魂の光」が二か国の同盟という意味なのか、それともそれ以外の意味を持つのかは定かではない。
 しかし彼女らは、災害獣が自国にも現れることを予想していたのは間違いない。
 イルルガングエ、ガムラドゥ、オグ・シグニス、そしてニルヴェス、と災害獣が現れたことで、イースラはいずれ訪れるであろう自国の災害獣を存在を予測していたのであろう。そして、その災害獣を討伐するために、アリオンを結成したのだというのが考えやすい。

 イースラの最大の誤算は、イースラの災害獣、エインハースが到来するのがあまりにも早すぎ、ニルヴェスが強くあまりに時間がかかりすぎ、結果としてはイースラは軍事提供するだけで、自国の難には残された軍隊と蒼眞勢のみで戦わざるをえなくなってしまったということである。

■反撃開始!

 イルルガングエ。
 触れれば命を奪うその災害獣は最も恐ろしく、そして最も攻略が簡単だ。

 相手は命を奪う。ならば命が無い者が戦えばいい。
 もっとも、もともとがスケルトンやゾンビ、兵棋で構成されているバストリアの軍隊である。イルルガングエに簡単に敗北を喫したからには、イルルガングエの呪詛は、単に生命を奪うというだけではなく、そのものの性質に干渉するような影響力を持っているのかもしれない。

 しかしながら、バストリアの大地を救った《黒騎将 ウーディス》が特殊な性質を持ち、それがゆえにイルルガングエに対抗することができたと、というのはフレーバーを見ても考えやすいことだ。

3-078S 《黒騎将 ウーディス》
ある日、黒の覇王の有力な側近たる魔術師が、突然バストリアの王宮から姿を消した。いかなるときも素顔を見せぬ新参の騎将に、なぜ兵たちがあそこまで魅入られたように従うのか? 魂を操る魔術を得意としていた彼は、その奇妙な謎を密かに解き明かそうとしていたという……。

 という《黒騎将 ウーディス》の記述から、ウーディスという存在は魂を鎧に定着させたような存在である可能性が高い。
 そう考えると疑問点はふたつで、それは誰の魂かということと、それを実行したのは誰かという点であるのだが、少なくとも第3弾までのフレーバーではそれらを示唆するようなことは書かれていない。

 しかしながら《黒騎士 ウーディス》とその配下の黒騎士団の登場により、バストリアは災害獣への反撃を開始した。
 アリオンを結成したグランドール、蒼眞勢を呼び寄せたイースラも同様に反撃を開始。
 ガイラントはガムラドゥへの反撃がなかなか叶わなかったものの、その対抗手段をついに発見、ドルイドたちを《神山の竜脈》へと結集させ、封印の大儀式を開始した。

3-047R 《神山の竜脈》
未曾有の国難にナーシア率いるドルイドたちは無数の古書をあたり、ついに封印の大儀式の秘術に到達した。それから彼らは、地の清霊力が集まる神山を探し求め、ついにその聖地にたどり着いたのだった。

 これら4か国については、おおむね災害獣と戦うことができているといってよい。おそらくは勝利を収めるのだろう、とも予想ができる。
 しかし最後の1国、.3番目の災害獣である《壊嵐の獣 オグ・シグニス》の襲来を受けたゼフィロンはそう簡単にはいかなかった。

■ゼフィロン史上最大の危機

 ゼフィロンの弱点は大きくわけて2つある。
 ひとつは、オーラに対抗する手段を持たないということ。

 オーラを持つものが存在するグランドールとバストリア。
 オーラを容易に操るイースラ。
 オーラに対抗する術を持つガイラント。
 だがゼフィロンはオーラに一切干渉ができない。

 オーラというのはゲーム的には単純な回避能力だが、ストーリー的には万能の書であるクロノグリフに抗う力である。
 運命に抗う力であるがゆえに、運命に抗えないものは手出しができない。それがオーラだ。
 そしてゼフィロンは、そのオーラを長らく持たなかった。

 だが第3弾において、ゼフィロンはオーラに匹敵する力を手に入れた。それが雷力術。正確にいえば、雷力術とそれを補佐するモジュールである。
 たとえばそれは、《サンダーブースター》だ。

9-071R 《サンダーブースター》
「こいつが新しい技術の産物か……これで亀みたいに盾の裏に隠れるグランドールの奴らに、一泡吹かせてやれるな!」
~血気盛んな雷力師~

 《サンダーブースター》はクロノグリフに記述がない技術である。いってみれば、オーラに相当するものと考えて間違いない。
 このような力をどのようにして得たのかは定かではない(平賀源内とかが召喚英雄として登場したからではないはずだ)が、少なくともひとつの弱点である、オーラへの対抗手段がないということは緩和された。

 だがもうひとつ、ゼフィロンには大きな欠点がある。
 それは国を統率をする人間がいないということだ。

 たとえばグランドールにはイデアス王家の《聖王子 アルシフォン》がいて、《白森の戦姫 ミーウ》がいるから、アリオンを結成できた
 イースラには《海凪の皇女 ナナツキ》がいて、バストリアには黒太子がいる。ガイラントでは、ナーシアという人物の存在が《神山の竜脈》のフレーバー上で語られている
 
 が、ゼフィロンには中核になりえる人物がいない
 たとえば《竜騎士 イェルズ》は名の知れた竜騎士だが、あくまで戦士だ。《折れ角の暴風 モル・ガド》も戦士だし、《雷力師団長 ニコレアナ》は雷力師団という、いってみれば軍隊の長だ。指導者的な立場かというと、少し違う。
 もちろんこれは現在までのカード化された人物に関してのことで、実際には指導者的な立場の人材がいるのだろうと思われる。

 たとえばゼフィロンは宗教団体の力が強いことが語られている。

3-054U 《飛雷宮の衛士》
大胆にも飛雷宮に忍び込もうとするなら、巡回中の衛士たちに気をつけなければならない。見つかったが最後、彼女たちは稲妻のように駆けつけ、あなたをその飛竜ごと丸焼きにするだろう。

 この中には教主となる人物がいて、たとえばそれは指導者のひとりとして挙げられるのだろう。
 だが少なくとも、現在まではその人物の影さえも現れていない。

 そうなった原因は、《雷帝 バルヌーイ》の存在にあるのかもしれない。
 雷龍族の長であるバルヌーイはゼフィロンでは象徴的な存在であり、とりあえずバルヌーイを出しておけば、ゼフィロンとしてのメンツは立った。だからほかの指導者的立ち位置の人物が登場する必要がなかったのだ、と。

 じっさい、ゼフィロンでのバルヌーイの存在は大きい。
 問題は、そのバルヌーイの存在があまりに大きすぎるという点である。
 たとえばアルシフォンが死ねば、アリオンの結束は弱まり、グランドールの勢力は弱まるだろう。だがそれだけでは潰えない。それは次に彼のポストにつくべき人間がいるからだ。その次なる人物は、最初の人物ほどは活躍できないかもしれないし、より手腕を振るうかもしれない。兎に角、次の人物がいる。

 だがバルヌーイは、ほとんど神のような存在だ。次などない。少なくとも、ゼフィロンの国民はそう思っている。

 宝樹の力を求めてアトランティカにやってきた5体の獣たち。そのうちの一体、オグ・シグニスはついに《紫の宝樹》の力を手に入れた。宝樹の力を得たオグ・シグニスはバルヌーイの力を凌ぎ、バルヌーイの咆哮は弱々しくなっていく。

3-072R 《雷帝の咆哮》
その雷の吐息は、無限に敵陣を焼き続けるかに見えた。だが、宝樹の力を得て、時とともに勢いを増していくオグ・シグニスの嵐の前に、次第に雷鳴の轟は小さくなっていった。

 ゼフィロンに最大の危機が訪れる。


前へ

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

通りすがりのラスクロプレイヤーです。なるほど、と思いました。普段はゲームとしてプレイしかしていないですが、こういうのもなかなか面白い考察ですね!

ブリキの さんのコメント...

コメントありがとうございます。
ラスクロは第3弾で『災害獣』という明確な敵が現れたことでかなりストーリー性が産まれたと感じたため、この記事を書きました。
フレーバーが単なるそのカードの紹介だけではなく、ストーリーの進行が見えるもの(《アリオンの大決議》や《雷帝の咆哮》のようなもの)が好きなので、もっと増えてほしいところです。

Powered by Blogger.