アメリカか死か/17/03 Rescue from Paradise -3
「中を見てみたい? おお、糞みたいな脳味噌は何言い出すかわかんねぇな。ここがどこだかわかってんのか?」
見張りの男の前に、Ritaは500 Capの束を叩きつけた。
「これで足りるか?」
「いやぁ、どうぞどうぞ、美しいお嬢さん」
過剰なほどに態度を変え、守衛は道を開けた。Ritaは堂々とParadise Fallsの中へ侵入することに成功した。
(武器は取り上げられないのか……)
信用商売だから、というわけでもあるまい。おそらくは、武器を使う気も与えぬほどに、中には用心棒や武器を持ったRaiderが闊歩しているに違いない。
そう思いながら歩いていると、中に入る門から出てきた者があった。男だ。もうひとり。こちらも男、というよりは少年か。どちらもぼろぼろの服を身に纏い、首輪をしている。奴隷だ。
「助け………」
助けて、とそう言い切るまえに、先行していた奴隷の首が爆発した。少年のほうは恐怖の顔で立ち止まる。
「おぉ、いた、いた」
と門から遅れて、Raiderの鎧を身に纏った男が出てくる。彼は怯えている少年を殴ったのち、首が捥げた男の身体を蹴りつけた。
「いまのは、なんだ」
とRitaは追いかけてきた奴隷商人らしき男に尋ねた。
「ん? あんた、客か」と奴隷商人はRitaを一瞥して言う。「爆弾首輪さ。無理矢理脱走しようとすれば、ずどん、ってわけだ。どうした、びびってんのかい?」
「そりゃ、若い娘があんなもん見たらびびる」
奴隷商人はそのまま少年を連れて行ってしまった。
(あれがLittle Lamplightから連れ去られた3人のうちのひとりだな)
見つかったのは良い、が、どうやら彼も首輪に爆弾がつけられているらしい。無事に脱出させるのは、容易ではない。
兎にも角にも、現状を見てみなければ始まらない。RitaはParadise Fallsの門を潜った。
予想通り、中は奴隷商人と用心棒だらけだ。だが想像していたよりも不潔というわけではなく、むしろ他のWastelandよりは整然とした印象を受ける。
奴隷が閉じ込められているのは奥の房らしい。用心棒たちの装備を確認しながら奥まで進むと、奴隷房の中に先ほど脱走しようとした少年の姿が見えた。
「お、あんた、さっきのMungo」
と指さしてくるからには、あちらも覚えていてくれたらしい。
「手短に話すぞ。Little Lamplightであんたらを助け出すように頼まれた。わたしはRitaだ」
「へぇ? あのMacCreadyがMungoに頼み事なんて、珍しいな」
少年はSammyと名乗り、ほかのふたりの子どもも同じ房に捕えられており、無事だと教えてくれた。
「で、どうやって助けてくれんの?」
と尋ねてくるSammyに、Ritaは正直に両手を挙げてみせた。「まだ考えてない。おまえは良いアイディアでもあるのか?」
「全員ぶっ殺しちゃえば?」
「おまえが脳味噌空っぽなのはわかった」
「冗談だよ。Squirrelを呼んでくる。あいつなら、首輪の外し方とか知ってると思うから」
Squirrelという少年は(少なくともRitaよりは)コンピュータに詳しいらしく、首輪を外す方法について教えてくれた。それはこのParadise Fallsのボスの部屋へ行ってターミナルをハッキングせよということだったが、問題がひとつあった。
「わたしはコンピュータは詳しくないぞ」
「おいおい、Mungoってのは何もできないのかい? 子どものおれだって、コンピュータの操作くらいはできるのに」
「もう帰ろうかな」
「冗談ですって、綺麗なおねえさん。猿でもできるような作業だけ教えるんで、助けてください」
「もうちょっとへりくだれよ」
RitaはSquirrelの言うとおりに、配電盤に工作をしたり、見張りを誘導したりとParadise Falls中を走り回った。
努力の甲斐あり、監視の目から逃れ、爆弾首輪を無力化することができた。
これで逃げられる、という段階になって、SquirrelとSammyは渋い表情になった。
「でもPennyがなぁ……」
「Pennyって、あの奥にいる女の子のこと?」Ritaは視線を房の奥へと向ける。黒人の少女が座り込んでいる。「何か問題があったの?」
「女のことは女が聞いてくれよ。とりあえず、おれたちは先に逃げる。あんた、Pennyのことはよろしくな」
そう言って、SammyとSquirrelのふたりは、トイレから下水溝へと抜けるために、さっさと逃げ出していってしまった。ま、足手まといがいなくなると思えば、ありがたい。
房に入り、Pennyの話を聞けば、閉じ込められているRoryという男を助けたい、とのことだった。
説得しようとしてもPennyは頑なで、Roryが助かるまで自分も逃げない、と譲らなかった。
Roryという男性は房の外の個人用シェルターに閉じ込められていて、そこに鍵が掛かっていたものだから、わざわざParadise Fallsのボスのところへ忍び込んで鍵を盗み出し、開けることとなった。
Pennyが心配していたくらいだから、Roryというのも彼女と同い年くらいの少年だろうと予想していたのだが、開けてみて驚いたことに、髭面の男性だった。
「いやぁ、Pennyがそんなに心配してくれてただなんて……」と説明を受けたRoryは緊張感無く頭を掻いた。「嬉しいなぁ。あんたも、助けてくれてありがとう」
「助かりたけりゃ、ちょっとは黙れ」
RitaはRoryを連れて、Pennyのもとへと向かう。Roryの無事を確認したPennyは喜び、これで彼女もトイレの下水溝から逃げ出せば一安心、と思いきや、Pennyはさらに、「Roryから離れたくない」などと言いだした。
「Penny、ぼくは大丈夫だから、きみは先に逃げないと……」
とRoryは説得しようとしたときである。
「おい、おまえ、何をやっている!?」
その声が聞こえた瞬間に、RitaはInfiltratorを抜いて撃ち放った。ぱすん、という気の抜けた音とともに、Ritaたちに声をかけた見張りの頭に穴が開き、血が噴き出す。
倒れた場所が不味い。高台の見張りから見える位置で、Ritaはそのまま高台の見張りへと発射した。彼もそのまま崩れ落ちるように倒れる。
Ritaは息を殺し、事態の動向を待った。
発射されたのは発射音の小さいInfiltratorの弾丸のみ。Ritaが倒した男たち以外に見張りがいなければ、誰も脱走には気づかないはず。
だがその希望的観測は現実にはならなかった。
「脱走者だ!」
どこからともなくあがったその一声で、見張りが、用心棒が、奴隷商人たちが集まってくる。銃弾も。
高台で見張りをしていたのはひとりではなかったらしい。狙撃手が、Ritaの手から銃を弾き飛ばした。痺れた手に気を取られている間に用心棒に接近され、腹を蹴られて地面に転がる。
「おねえちゃん!」
Pennyの悲痛な声が響く。大きな声だ。どこまでも聞こえるほどに。
「馬鹿な女だ。たったひとりで潜入して、正義の味方の真似事か」
Ritaを蹴った用心棒が愉快そうに笑う。
RoryはPennyを守るために彼女に覆い被さって殴られている。
(正義の味方の真似事か……)
確かにRita自身は正義の味方ではないな、と、腹の痛みに堪えながらも、なんだかおかしくなって、Ritaも笑ってしまった。
「Penny」息をするのも苦しいかったが、Ritaは倒れ伏したままで声を発した。「Penny、Penny……」
「なんで、なんでこんな……。誰も助けてくれない……」
「そんなことはない。助けてくれるひとはいるよ」
「そんなの……」
「呼んでみろよ。Masked Raiderって」
「え?」
「Masked Raiderって叫ぶんだ」
何をぶつぶつ言っていやがる、と上のほうから用心棒の声がしたが、もはや構わなかった。
「Masked Raider……」
「もっと大きな声で、一緒に」
「Masked Raider!」
白けつつある空の中に、真っ黒な影が飛び込んできた。
見張りの男の前に、Ritaは500 Capの束を叩きつけた。
「これで足りるか?」
Challenge: Speech (83%) → SUCCEEDED
Pay: 500 Caps
「いやぁ、どうぞどうぞ、美しいお嬢さん」
過剰なほどに態度を変え、守衛は道を開けた。Ritaは堂々とParadise Fallsの中へ侵入することに成功した。
(武器は取り上げられないのか……)
信用商売だから、というわけでもあるまい。おそらくは、武器を使う気も与えぬほどに、中には用心棒や武器を持ったRaiderが闊歩しているに違いない。
そう思いながら歩いていると、中に入る門から出てきた者があった。男だ。もうひとり。こちらも男、というよりは少年か。どちらもぼろぼろの服を身に纏い、首輪をしている。奴隷だ。
「助け………」
助けて、とそう言い切るまえに、先行していた奴隷の首が爆発した。少年のほうは恐怖の顔で立ち止まる。
「おぉ、いた、いた」
と門から遅れて、Raiderの鎧を身に纏った男が出てくる。彼は怯えている少年を殴ったのち、首が捥げた男の身体を蹴りつけた。
「いまのは、なんだ」
とRitaは追いかけてきた奴隷商人らしき男に尋ねた。
「ん? あんた、客か」と奴隷商人はRitaを一瞥して言う。「爆弾首輪さ。無理矢理脱走しようとすれば、ずどん、ってわけだ。どうした、びびってんのかい?」
「そりゃ、若い娘があんなもん見たらびびる」
奴隷商人はそのまま少年を連れて行ってしまった。
(あれがLittle Lamplightから連れ去られた3人のうちのひとりだな)
見つかったのは良い、が、どうやら彼も首輪に爆弾がつけられているらしい。無事に脱出させるのは、容易ではない。
兎にも角にも、現状を見てみなければ始まらない。RitaはParadise Fallsの門を潜った。
予想通り、中は奴隷商人と用心棒だらけだ。だが想像していたよりも不潔というわけではなく、むしろ他のWastelandよりは整然とした印象を受ける。
奴隷が閉じ込められているのは奥の房らしい。用心棒たちの装備を確認しながら奥まで進むと、奴隷房の中に先ほど脱走しようとした少年の姿が見えた。
「お、あんた、さっきのMungo」
と指さしてくるからには、あちらも覚えていてくれたらしい。
「手短に話すぞ。Little Lamplightであんたらを助け出すように頼まれた。わたしはRitaだ」
「へぇ? あのMacCreadyがMungoに頼み事なんて、珍しいな」
少年はSammyと名乗り、ほかのふたりの子どもも同じ房に捕えられており、無事だと教えてくれた。
「で、どうやって助けてくれんの?」
と尋ねてくるSammyに、Ritaは正直に両手を挙げてみせた。「まだ考えてない。おまえは良いアイディアでもあるのか?」
「全員ぶっ殺しちゃえば?」
「おまえが脳味噌空っぽなのはわかった」
「冗談だよ。Squirrelを呼んでくる。あいつなら、首輪の外し方とか知ってると思うから」
Squirrelという少年は(少なくともRitaよりは)コンピュータに詳しいらしく、首輪を外す方法について教えてくれた。それはこのParadise Fallsのボスの部屋へ行ってターミナルをハッキングせよということだったが、問題がひとつあった。
「わたしはコンピュータは詳しくないぞ」
Challenge: Science≧50 → FAILED
「おいおい、Mungoってのは何もできないのかい? 子どものおれだって、コンピュータの操作くらいはできるのに」
「もう帰ろうかな」
「冗談ですって、綺麗なおねえさん。猿でもできるような作業だけ教えるんで、助けてください」
「もうちょっとへりくだれよ」
RitaはSquirrelの言うとおりに、配電盤に工作をしたり、見張りを誘導したりとParadise Falls中を走り回った。
Challenge: Sppech (62%) → SUCCEEDED
努力の甲斐あり、監視の目から逃れ、爆弾首輪を無力化することができた。
これで逃げられる、という段階になって、SquirrelとSammyは渋い表情になった。
「でもPennyがなぁ……」
「Pennyって、あの奥にいる女の子のこと?」Ritaは視線を房の奥へと向ける。黒人の少女が座り込んでいる。「何か問題があったの?」
「女のことは女が聞いてくれよ。とりあえず、おれたちは先に逃げる。あんた、Pennyのことはよろしくな」
そう言って、SammyとSquirrelのふたりは、トイレから下水溝へと抜けるために、さっさと逃げ出していってしまった。ま、足手まといがいなくなると思えば、ありがたい。
房に入り、Pennyの話を聞けば、閉じ込められているRoryという男を助けたい、とのことだった。
Challenge: Speech (31%) → FAILED
説得しようとしてもPennyは頑なで、Roryが助かるまで自分も逃げない、と譲らなかった。
Roryという男性は房の外の個人用シェルターに閉じ込められていて、そこに鍵が掛かっていたものだから、わざわざParadise Fallsのボスのところへ忍び込んで鍵を盗み出し、開けることとなった。
Pennyが心配していたくらいだから、Roryというのも彼女と同い年くらいの少年だろうと予想していたのだが、開けてみて驚いたことに、髭面の男性だった。
「いやぁ、Pennyがそんなに心配してくれてただなんて……」と説明を受けたRoryは緊張感無く頭を掻いた。「嬉しいなぁ。あんたも、助けてくれてありがとう」
「助かりたけりゃ、ちょっとは黙れ」
RitaはRoryを連れて、Pennyのもとへと向かう。Roryの無事を確認したPennyは喜び、これで彼女もトイレの下水溝から逃げ出せば一安心、と思いきや、Pennyはさらに、「Roryから離れたくない」などと言いだした。
「Penny、ぼくは大丈夫だから、きみは先に逃げないと……」
とRoryは説得しようとしたときである。
「おい、おまえ、何をやっている!?」
その声が聞こえた瞬間に、RitaはInfiltratorを抜いて撃ち放った。ぱすん、という気の抜けた音とともに、Ritaたちに声をかけた見張りの頭に穴が開き、血が噴き出す。
倒れた場所が不味い。高台の見張りから見える位置で、Ritaはそのまま高台の見張りへと発射した。彼もそのまま崩れ落ちるように倒れる。
Ritaは息を殺し、事態の動向を待った。
発射されたのは発射音の小さいInfiltratorの弾丸のみ。Ritaが倒した男たち以外に見張りがいなければ、誰も脱走には気づかないはず。
だがその希望的観測は現実にはならなかった。
「脱走者だ!」
どこからともなくあがったその一声で、見張りが、用心棒が、奴隷商人たちが集まってくる。銃弾も。
高台で見張りをしていたのはひとりではなかったらしい。狙撃手が、Ritaの手から銃を弾き飛ばした。痺れた手に気を取られている間に用心棒に接近され、腹を蹴られて地面に転がる。
「おねえちゃん!」
Pennyの悲痛な声が響く。大きな声だ。どこまでも聞こえるほどに。
「馬鹿な女だ。たったひとりで潜入して、正義の味方の真似事か」
Ritaを蹴った用心棒が愉快そうに笑う。
RoryはPennyを守るために彼女に覆い被さって殴られている。
(正義の味方の真似事か……)
確かにRita自身は正義の味方ではないな、と、腹の痛みに堪えながらも、なんだかおかしくなって、Ritaも笑ってしまった。
「Penny」息をするのも苦しいかったが、Ritaは倒れ伏したままで声を発した。「Penny、Penny……」
「なんで、なんでこんな……。誰も助けてくれない……」
「そんなことはない。助けてくれるひとはいるよ」
「そんなの……」
「呼んでみろよ。Masked Raiderって」
「え?」
「Masked Raiderって叫ぶんだ」
何をぶつぶつ言っていやがる、と上のほうから用心棒の声がしたが、もはや構わなかった。
「Masked Raider……」
「もっと大きな声で、一緒に」
「Masked Raider!」
白けつつある空の中に、真っ黒な影が飛び込んできた。
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