• ■目次
    • 対決の刻
    • これでおあいこ
    • シュレディンガーの猫は元気か


■対決の刻
 世界は終わりを迎えつつあった。


6-042C《絆の闘志》
「かつて、もっとも力ある神が大地を作り、魂の絆がそれを盤石にした。」
~ガイラの創造をめぐる伝承~

 第3弾の災害獣
 第4弾の《滅史の災魂 ゴズ・オム》
 そして第5弾のロジカ勢力
 度重なる襲撃を受け、アトランティカの大地は傷ついていた。

 と同時に、神も傷ついていた。災害を押し留め、クロノグリフの破壊を受け、さらにはロジカに対抗するために己の化身をアトランティカに顕現させていたからだ。
 その結果として、精霊神たちはロジカの女神である《神威の抹消者 ダロス》の破壊に成功した。ああ、それでアトランティカは平和を取り戻したかのように見えた。

 だが戦乱の爪痕は深く、精霊神たちは力を使い果たし、消滅してしまったのだ。

 未曽有の事態ではあったが、精霊神たちは何もせずにただ消えたわけではなかった。アトランティカの人々に向け、新たな道を指示していたのだ。


6-010C《神託を告げる大神官》
ヴェスが去りしとて希望を失ってはならぬ。いずれ新たな光が、再び我らが白輝の城壁を照らす、と最後に告げていかれたのだから……!

 精霊神とはいえ、元はヒトである。
 ならばヒトが神に成り代わることができる。
 それがロジカたちの理論であったが、この考え方は精霊神を失ったアトランティカにも通用した。

 アトランティカは新たな神を必要としていた。
 神になるためには証印を手にしてクロノグリフの試練を受ければよい。試練を突破すれば、証印は力を持ち、所有者に精霊神になるための資格を与える


6-099U《海底宮の番人》
「力なき者の前では、大渦のように暴れ狂うのみ。新たなる神の証持つものにだけ、その番人は頭を垂れるだろう。」
~「マジュラの水底の碑文」より~

 問題はふたつ。
 ひとつは精霊神になる者は、このアトランティカを去らねばならないということ。
 神とはヒトの殻を打ち破ることだ。であれば、ヒトのままでは神にはなれないのだ。事実上の人柱である。
 だがそれは壊れつつあるアトランティカにおいては小さな問題だ。

 もうひとつは、誰を神にするかという問題である。


6-064U《嵐王選びの神儀官》
シグニィの座を継ぐ新たな王……それは、すべからく戦いの嵐を総べる者でなくてはならぬ。

 グランドールは、かつて《龍王の厄災日》の日に聖王家と戦い、そして契約を交わした始祖龍の血を受け継ぐ《始祖龍の初孫 ラ・ズー》が圧倒的な信仰力を集め、時期精霊神に推挙された。


6-023U《神化の天導門》
「かくて大いなるその門、光と聖刻の中に現れいでて、かの者を始まりと終わりの神殿に導きたり。」
~「神統記 光継の章」より~

 《始祖龍の初孫 ラ・ズー》の前に試練の門が出現。光の試練に挑む。

 一方で、島国群島にしてワーシャーク、人魚、ヘルネブなどの人種民族が混在するイースラの次期精霊神決定は難航した。
 最後に精霊神として挑むことに決定されたのは、イースラ随一の剣士である《皇護の刃 イズルハ》であった。
 先に述べたように、精霊神になるということはアトランティカの常人とは隔絶された存在になるということだ。《海凪の皇女 ナナツキ》らは引き留めようとしたものの、《皇護の刃 イズルハ》の決意は固く、彼女もクロノグリフの試練に突入する。

 同じくガイラント、ゼフィロンでも次期精霊神に挑む人材が決定。それぞれが証印を手に、クロノグリフの試験に向かう。

■これでおあいこ
 既に異変は世界各地で生じ始めていた。


6-050C《渦巻く曇天荒らし》
シグニィの威光がゼフィロンから消えたとき、バルヌーイすらも統治できなかった邪龍の眷属が、ついに世界に牙をむいた。

 ゼフィロンでは、かつて《第二界の雷皇 シグニィ》が退治した邪龍の血脈が力を解放し始めた。嵐が吹き荒れ、雷が落ち、渦巻く雲の中に恐るべき邪龍の眷属、《渦巻く曇天荒らし》が出現した。
 新たなる精霊神になるための試練に失敗すれば、世界は闇の世紀に堕ちるだろう。
 だがそのような危惧をする者はゼフィロン中を探してもいなかったに違いない。
 

6-068R《神秘の雷鳴》
「輝くいかずちが、渦巻く雲の中で不思議な言葉を描いた……次の瞬間、新たなる神の名は、ゼフィロンのあらゆる空を震わせて鳴り響いた。」
~「神統記 譲雷の章」~

 さらなる嵐が生じ、雷鳴が轟いた。世界を浄化する風と雷だった。これまでがそうであったように、ゼフィロンのいかずちが《渦巻く曇天荒らし》が切り裂いた。
 《竜騎士 イェルズ》が《天雷の竜騎神 イェルズ》になったのだと、ゼフィロンの国民はそれで知ることができた。

 ガイラントでは、まさしく太陽が落ちようとしていた。
 精霊神が消えるというのはどういうことだろうか。


6-076S《黒太子 ガイ・ヴァ・ナム》
そもそもザインさえおらぬ古き時代……世界の始まりは、底知れぬ闇であったともいう。すべての魂を包みこみ、優しく眠らせ覆い隠す……
闇の法こそ、神去りし世を総べるにふさわしきものだと思わんか?

 始祖なるザインが世界を作る以前、そこはただひたすらの闇であった。
 ザインが世界を作り、しかしそれでは生きるためには過酷過ぎた。
 その中で最初に力を手にしたのが、山吹色の巨人と呼ばれた《第一界の地魂王 ガイラ》であった。
 その後、《第二界の雷皇 シグニィ》、《第三界の波濤巫女 エン・ハ》、《第四界の聖光子 ヴェス》といった精霊神たちがアトランティカを平定していたのだ。
 その力が消えれば、ザインが世界を作ったばかりのようになるだろう。

 もちろん世界はそんなことにはなりはしない。
 闘気と酒気を纏った琥珀色の精霊力が、沈みつつある太陽を支えた。


6-037S《覇王拳神 ベルカ》
「その日、ガイラントの大地に沈まんとする赤き陽を、気高き闘気が押しとどめた。」
~「神統記 承地の章」より~

 ゼフィロンの《天雷の竜騎神 イェルズ》ガイラントの《覇王拳神 ベルカ》が新たな精霊神となり、またグランドールの《光継の神龍王 ラ・ズー》イースラの《蒼世の女剣神 イズルハ》もクロノグリフの試練を乗り越えた。
 こうして彼らは新たな精霊神——継承神となり、アトランティカは安定を取り戻したのだった。

■シュレディンガーの猫は元気か
 アトランティカ北方、バストリアに、理力の結晶たる《神威の抹消者 ダロス》の破片が集められていた。
 精霊神との戦いによって、《神威の抹消者 ダロス》は破壊された。だがバストリアは、ロジカは、まだ諦めていなかったのだ。


6-090R《異端の宿命》
「確かにダロスは神々の戦いの中で破壊された。だが絶望を力とせよ……クロノグリフと神にいくら否定されようとも、我らの存在自体が、未来の可能性を証明するのだ。」
~元首 ロギナス~

 《神威の抹消者 ダロス》が破壊されたからといって、バストリアの負けはまだ決まっていない。
 なぜなら、《神威の抹消者 ダロス》は未来からやってきた存在だからだ。未来にはロジカがいるのだ。だから負けるはずがないのだ。

 正確に述べれば、負けない未来もある、というべきだろうか。

 多世界解釈。
 それはヒュー・エヴァレット3世によって提唱された量子的振る舞いの一解釈であり、提案者の名を取ってエヴァレット解釈とも呼ばれる。

 一般的に古典の対義語は現代であるが、物理学では古典の対義語は量子である。
 量子力学以前と以後の違いを簡単に述べるとすれば、それは確定論ではないという点だ。
 物体の運動について論ずるとき、大事なのは運動量と位置だ。

 運動量というのは質量と速度の積で、古典力学、すなわちニュートン物理学では、運動方程式によってその時間微分が力積で表すことができるようにさせるための概念である。
 もしこの運動量と位置が、ある物体についてわかっていたとしよう。そうすると、現在位置がわかるし、どの方向に進むかもわかる。力を受けていなければ、それは確定していて、決定している。だから未来が完璧に予知できる。完璧に運動量と位置がわかっていれば。


6-088C《ロジカの屍毒兵》
「いかなる戦士もいつかは倒れる。だが、未来を殺すことが誰にできようか?」
~元首 ロギナス~

 だが、量子力学では運動量と位置の積は一定以上の不確定性を持つことになっている。
 ここで大事なのは、不確定性を持つというのは、けして「もっとちゃんと測定すればわかるようになる」ということではないということだ。
 量子的性質を持つ物質(正確にはあらゆる物質は量子的性質を持つが、ここではプランク定数に対して質量や速度が十分に大きくないものを指す)は、どんなに努力しても、どれだけ慎重に測定しようとしても、運動量と位置の積は一定以上の不確定性を持ってしまうのだ。
 いや、量子的性質に関して述べれば、「運動量と位置の積は確率的に一定の幅を持って決定される」というべきだろうか。

 それを観察するのが、二重スリット実験だ。
 電子が通り抜けられない紙に微小なふたつのスリット(隙間)を入れ、確率的にどちらかのスリットを通るようにして電子銃を発射する。すると電子はスリットを通り、奥の電子に反応する素材に衝突し、着地地点に模様を作る。
 電子はスリットを通った。それは間違いない。
 では、ふたつあるうちのどちらのスリットを通ったのだろうか?
 量子力学的には、「どちらも通った」といわざるを得ない。これは量子の波動性による干渉のためであり、事実、奥の素材には干渉縞ができている。

 だがこの結果は、ひとつの電子のみ発射した時にも同じ結果となるのだ。
 つまり、たったひとつの電子が、なぜか単体で波の性質を持ち、波動性を示すということになってしまうのだ。
 この粒子波動性の解釈のひとつとして考えられたのが、多世界解釈であり、その解釈では電子は多世界の電子自身と干渉し合い、重ね合うことで波動性を持つということになっている。
 この解釈が正しいかどうかを確かめる術はない。

 だが少なくとも、アトランティカは多世界解釈によって世界は変容することになっている。
 未来は観測のたびに分岐し、その分岐した未来は様々な形を取るのだ。


6-073S《可能性の黒極神 ダロス》
「彼女自体の破片から、それを形作る根本原理を再生するのは、我らにとっても不可能ではありませんでした。ですが、未来の彼女があの姿なのかどうかは我らのあずかり知らぬこと……そう、未来は常に分岐するのです。」
~ギジェイの一番弟子 ロウ・ギュネス~

諦めないロジカ勢力の旗の下、《魔狂技官 ギジェイ》やその弟子たちによって、《神威の抹消者 ダロス》は再生された。
 ——それはもはや決定された未来からやってきた《神威の抹消者 ダロス》ではない。新たな未来を開く《可能性の黒極神 ダロス》であった。


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