■《レア・シュミット/Leah Schmidt》、
友の裏切りに気付かずに過剰鎮圧を続けること

 軍の実験場で証拠を確保した《レア・シュミット/Leah Schmidt》は、守護兵たちとともに近隣の住民たちに尋問を始めました。
「レアさま、彼らは民間人では………」
「兎に角捕らえて拘束しなさい! 誰も外には出さないで。わたしが皆、直接尋問するから」

4-2-67U《過剰鎮圧/Excessive Suppression》

 これまで一度として目にしたことがないレアの怒りの表情に、部下たちは大慌てとなりました。その感情的な尋問は、実験を行ったものたちの辿った経路を知ることができたという形で結果となりました。すぐにレアは休む暇もないままに馬を走らせ始めました。

 奇妙なことに、《気を引き締める警備隊長/Awakened Chief Guard》はレアを出迎える準備を整えていました。
「さっさと働け! レアさまが直々にいらっしゃるんだ! くそ、反乱軍のアジトなんかが我が区域にあったなんて……」
「警備隊長、なぜわたしが来ることを知っていたんだ?」
「これはこれはレアさま。失礼致しました。司令部から、部隊点検があるという伝令が来ていたもので………」

(司令部にもスパイがいるってこと……!?)
 これ以上情報を得ることが難しいだろうということを悟ったレアは、司令部に戻らざるを得ませんでした。複雑な状況を相談したいと思っていたところで、ちょうど《ベッカー・クラウゼ/Becker Krause》が司令部の守備についているということを耳にしました。

「ねぇ、ベッカー……、高位将校の中にもエルヴィンに従う者がいるかもしれないって言ったら、信じる?」
「無理もない話よね。あの成り行きを見れば、おれだって蹴りを入れたくなるわ」
 そう言ってベッカーが顎で示した窓の外では、前王トルステン一世の銅像を作るために兵器廠で鍛冶屋が慌ただしく刀剣を溶かしていました。

4-2-66R《剣を銅像に/Sword to Statue》

 第三次大陸戦争を終結させた偉大な前王の業績を称えるため、もはや役には立たない古い武器を溶かすのだ、という《トルステン・フォン・ベルクマン2世/Torsten von Bergmann II》による政策でした。しかし武器を溶かした鉄はまた新たに武器を作るために使うのが正しいはずで、今の王は明らかに前王の覇業を継ぐ者であるということを国民たちに主張し、己の玉座の正当性を主張したいようにしか見えませんでした。

「冗談だよ。そんなことは言わないで」
「これまで一度も口先だけのことを言わない鉄の騎士さんが、冗談なんて珍しいね? 何日も無理してるんじゃない? ちょっと休んだらどう? 緊張してばかりだと身体を壊すわよ」
「ごめん……、そうさせてもらう。あとはお願いしてもいい?」
「心配しないでお休みなさいな」
 ベッカーに指揮を任せて宿営地で眠りについたレアは、最も信頼する友が《反軍の司令官/Gommander of Insurgent》であるなどとは夢にも思いませんでした。



■《デリヤ・ペイニルシ/Derya Peynirci》、
命を発し森を救うこと

 エルフと森の住民たちという邪魔者がいなくなったことで、ドライアドたちは淀みなくシエナに向かってその根を伸ばし始めました。聖なる樹液が流れる神聖な樹に蔓が巻き付き、覆い尽くされた幹にドライアドの女王の姿が形作られていました。
 逃げたエルフたちは足を止めて悲しみの涙を流していました。森とエルフは常に一緒であり、一体であったのです。彼らは森から避難してはいましたが、どこかへ行くあてもありませんでした。

 そのときです。どこからか歌声が聞こえ始めました。その意味と内容はわかりませんでしたが、悲哀に満ち満ちながらも明瞭で美しい歌声でした。
 茫然自失していたエルフたちは涙を拭き、腰を上げました。一方で、森を征服した喜びに意気揚々だったはずのドライアドの女王の表情が硬直しました。

 避難したエルフらと森の住民たちの間に、《デリヤ・ペイニルシ/Derva Peynirci》が姿を現したのです。彼女の唇は閉じられていましたが、歌声は明らかに彼女から発せられていました。奇妙な魔力を纏うナガの女王の声に、ドライアドたちが道を開けてゆきます。

4-2-88C《デリヤの命令/Derya's Order》

 皆が魂が抜けたかのようにその場面を眺めていました。シエナの真下に達し、向かい合ったふたりの女王は視線だけで対話をしているかのようでした。

「ドライアドの女王よ。気のままに目覚め、住民会議を思うがままにするアニルのことが嫌いなのはわたくしも同じです。ですが、どうして――」
 デリヤは物静かに、それでいて強い語調で森の秩序を混乱させたことを避難すると、まるで降伏するかのように暴れていたドライアドたちが大人しくなりました。

 それまで忙しなく働いていた《アニル・ルーレシ/Anil Luleci》は《アイカン/Aikhan》の掌の上で、気絶するように寝入ってしまいました。僅かな休息でしたが、いつもそうであった真の平和の姿がありました。

4-2-86U《平穏な休み/Tranquil Rest》



■《メリナ・エモンス/Melina Emmons》、
禁じられた実験の産物を目にすること

 己の発した派兵決議をあまりにも簡単に同意したことを怪しみ、《メリナ・エモンス/Melina Emmons》は《カロラの実験室/Carla's Laboratory》に踏み込むことにしました。
 目にするだけでも恐ろしい、生命を弄ぶかのように切り分ける研究員が突然の来訪者に驚きました。
「メリナさま、わたくしどもはただキメラを研究していただけです。おっしゃったような実験は絶対に――」
「邪魔。どいて」
 実験室に入ってきたメリナに向かってキメラが駆け寄ってきました。そのキメラに爆発性があることから、《カロラ・ロッシ/Carla Rossi》はいざというときにはこの実験室を吹き飛ばしてしまう腹積もりのようでした。

4-1-94C《発火性キメラ/Ignitable Chimera》

 メリナの手から青い光の刃が湧き上がりました。それは他の魔術師では想像もできないほどの魔力でした。その特殊なキメラはあっという間に爆発してしまいましたが、キメラの爆発が人工培養器の中で眠りついていたホムンクルスを起こしてしまいました。
 不安定な生命体は初めからカロラを攻撃するために産まれたかのように、直ちにカロラに向かって跳びかかりました。ホムンクルスが己の前腕で骨を取り出しました。己の身体を労わることなど考えもしないようです。
 怒りとともにメリナは両手から魔力を撃ち出しました。誰もその場に立っていられないほどの魔力の奔流は、脳を穿るような感覚を与えました。騒がしい実験室に一瞬だけ訪れた静寂は、すべての実験体を崩壊させてしまったのです。

4-2-106U《爆発的共鳴き/Explosive Resonance》

 残った痕跡を探すメリナの目に映ったのは、実験室の隅に置かれていた青い光を放つ培養器でした。金属のようでもあり、ゴムのようでもある皮膚を持つ生命体は眠り続けており、まるで外で起きた騒動には一切の関心がないように見えました。キメラの爆発にも、メリナの魔法にも、一切の傷がついていなかったのです。誰が見ても、《禁じられた実験の産物/Forbidden Experiments》であることは明らかでした。

4-2-101R《禁じられた実験の産物/Forbidden Experiments》


 メリナは激昂しました。

「カロラ、あんたはいったい自分がどんな怪物を作り出したのかわかっているの!? くそ、逃げたか。絶対に逃がさない!」
 《ピエトロ・フリゴ/Pietro Frigo》のもとへ向かったメリナは、カロラの参戦の目的が実験の完成のためであろうと検討をつけました。
「ピエトロ、あなたたちの下種な下心はすべてわかっている。直ちにカロラの身柄をこちらに引き渡しなさい」
「おぉ、メリナ。いったいきみがどれだけのことをわかっているというのだろう? いやいや、きみは何歩も遅れを取っているのだよ」
 まるですべてが思い通りとでもいうように微笑を浮かべるピエトロの表情を前に、メリナは当惑することしかできませんでした。



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