12-040R《勇志の継承》
「魂は地に還るとも、陽はまた昇る……忘れるな! 黄金の志さえあれば……俺はいつでもお前とともに在る!」
~スウォードの最後の言葉~



「あ、あ、あんた……なんでっ………!」
 アルマイルは己の目の前で起きた一連の出来事が信じられず、歯の根が合わないままでそれしか言えなかった。

 3人しかいないと思っていた襲撃者が実は4人いたが、新たに現れた髭面の男によって倒された。髭面の男はどうやら女主人――〈山賊女王〉だとか呼ばれていた――の知り合いらしく、助けてくれたらしい。ここまでは良い。

 が、なぜその助けてくれた相手を〈山賊女王〉は撃ったのだ。

「なんでってね、南軍行進歌ディキシィも歌えようなやつが信用できるか」
「何を言って………あなたのこと、山賊女王だとか呼んでいた――知り合いなんじゃないのか!?」
「その呼び方はやめてよ。可愛くないな。〈女ジェシー・ジェームズ〉もごめんだね。どうせなら〈平原の可愛らしい花〉だとか呼んで欲しいけど、それが厭ってんなら普通に《ベル・スタア》でいい。で、いい、お嬢ちゃん? 理由は3つ」
 と《ベル・スタア》は拳銃をホルスターに収めてから指を3本立てた。
「ひとつ、わたしは南軍出身であいつは北軍出身だ。
 ふたつ、わたしは無法者であいつは保安官だ――無法者でもあるけれど。
 みっつ、お嬢ちゃん、そんな都合良く正義の味方が来て助けてくれるなんて思うのは、大衆小説ペーパーバックの読み過ぎだ。たとえ相手が〈ワイルド・ビル〉でもね。大方、こいつも最初のやつらの仲間だろうさ。さすがに5人で打ち止めかな。これ以上の気配はないね」
「だって、だって……その人、助けてくれたのに……」
「囮でしょ? あのね、なに、助けてくれたって。え、このスカーフ野郎が出てくるまで」とベルは足元の4人目の襲撃者の頭を蹴った。「息を潜めて待っていて、出てきたところでタイミング良くこいつを殺してくれたってわけ? 状況もわかっていないのに? おいおい、なんだよ、それ。しかも王子さまなら兎も角、髭面の爺だよ?」
「そんな決めつけって………」
「そういう直感が働かないから、お嬢ちゃんは強襲されて後ろ手で縛られることになるんだよ」とベルは呆れたように舌を出す。「で、お嬢ちゃん。そっちの半裸兄さんは大丈夫なの?」

 言われてようやく、ぼろぼろの状態でありながらなおアルマイルを庇おうとしてくれたスウォードを気遣うことを忘れていたことに気付く。アルマイルを庇ったあとにはまた倒れこんでしまったスウォードは、急に動いたせいで傷が開いたらしく出血していた。だが意識を取り戻したのは良いことだ。薄く目を開くスウォードの瞳には、未だ死の色は宿ってはいない。
「スウォード、立てる?」
 アルマイルはスウォードの脇の下に身体を入れ、どうにか肩を貸してやろうとした。支えるだけならなんとかなるのだが、このまま巨漢のスウォードを動かそうとすると下半身を引きずることになってしまう。
「アル……」
「スウォード?」
「アル、ディアーネのことを………頼む」
 譫言のような言葉のあとで、スウォードの身体はアルマイルから離れた。

 銃声があった。

 ばさばさと羽音を立てながら鳥たちが木樹の間から飛び出していった。これまでの戦闘や銃撃戦の間も根強く隠れようとしていた鳥たちだった。銃撃を意識しながらも、アルマイルはどこか呆然と目の前の光景を見ていた。
 だって、だってもう敵はいないって言ったじゃないか。
 倒れるスウォードの胸は真っ赤に染まっていた。視界が広がると、銃を構えていたのは《ベル・スタア》によって頭を撃たれたはずの髭面の男。
「まさか防がれるとはな。やれやれ……」
 と男はスウォードを見下ろして呟くと、倒れた身体に向けて無造作に銃を撃った。左目が弾けて頭蓋が割れ、血と脳と眼球の破片が飛び散った。

 ぱぱん、と髭面の男の銃よりも軽い2連射。ベルの射撃により、今度は髭男の左胸に穴が空き、血が噴き出す。髭面の男は一度は倒れこんだものの、またしてもすぐに起き上がってきた。そうして、何事もなかったかのように言う。
「おい、どうしたってんだよ、〈山賊女王バンデッド・クイーン〉。頭が駄目でも心臓なら、って思ったかい?」
 嫌悪すべき異名で呼ばれ、ベルは舌打ちした。
死に札デッドマンズ・ハンド〉……殺されても死なないくらいじゃないと、無法者だらけの街で保安官なんかできないってわけね」
「ご明察。〈女王〉、そしてオルバランの姫さんよ。抵抗しても無駄だってことがわかっただろう? まぁ6発撃ったからな、もう弾切れだろうが」

(この男、召喚英雄………!)
 アルマイルは、ようやくその事実に気づいた。召喚英雄とは化け物だ。何をも恐れぬはずの〈黄金覇者〉である父が、かつて震える声で言っていたのを思い出す。このレ・ムゥでは明らかな異質な力を持つ化け物たち。目の前の〈デッドマンズ・ハンド〉だとか〈ワイルド・ビル〉だとか呼ばれた髭面の男はまさしくそれだった。
(そしておそらくは、彼女も………)
 悔しそうに歯噛みする《ベル・スタア》に問いただす余裕はなかった。
「まぁ、これで終いだ」
 突きつけられた真鍮構造ブラスフレームの銃口。アルマイルはその中に暗闇を見た。そしてそのまま死の河へと足を踏み入れようとしたとき、太い腕が冷たい水底からアルマイルを押し返した。

「アル、おれの魂は」

 心の臓を貫かれた。
 眼球を割られた。
 脳の破片が飛び散った。
 そして何より――彼は召喚英雄ではない。化け物ではない。ただの人間で、それなのに、それなのに。

「アル、おれの魂は、いつでもおまえとともにある」

《赤陽の大闘士 スウォード》の握るアルマイルの斧が髭面の〈デッドマンズ・ハンド〉の小銃を両断し、銃把を握っていた腕を切り落とした。





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