アマランタインに種実無し/07/01 Calling Dr.Grout-1
第七行
Dr. Groutによろしく
Calling Dr.Grout
Dr. Groutによろしく
Name: Azalea
Clan: Tremere
Sex: Female
Disciplines: Auspex (1), Dominate (2), Thaumaturgy (3)
Feats:
-Combat: Unarmed (2), Melee (1), Ranged (3), Defense (3)
-Covert: Lockpicking (3), Sneaking (4), Hacking (5), Inspection (3), Research (3)
-Mental: Haggle (2), Intimidate (2), Persuasion (2), Seduction (5)
-Soak: Bashing (2), Lethal (1), Aggravated (0)
Equipment: Thirtyeight, Utica M37, Knife, Heavy clothing
Humanity: 10
Masquerade: 5
「ねぇ、逃げないで、お願い。あなたのことをこのあたりで見たって話を聞いて、ずっと待っていたの」
Azaleaの手を握ってきた赤毛の女の手は冷たく、「ずっと」の時間を思わせた。
振り払おうと思えば、振り払えただろう。そうしなかった理由は3つ。
ひとつはElizabeth Dane号であった出来事で疲れ切っていたから。
ひとつはPrince LaCroixのビルの前で揉め事を起こすのは避けたかったから。
そして最後のひとつは、赤毛の女に見覚えがあったからだ。
「それっていうのも、あなたのことをずっと探していたの……、あの夜から。ねぇ、覚えてる? Santa Monicaの病院でわたしのことを助けてくれたでしょう? その恩返しをしたくて――」
Santa MonicaでGhoulのMercurioの手伝いをしていたときに、病院で大怪我をしているにも関わらず放置されていた女性だった。Azaleaが、己の血を飲ませて治療したのだ。
「ごめん、自己紹介を忘れていたわ。わたしはHeather。Heather Poe」
(どうしてここまで………)
なんと言って誤魔化すべきだろうか。恩返しをしたいなどと言っているが、果たしてHeatherと名乗るこの女は、Azaleaの正体に気付いているのだろうか。
そんなふうに逡巡していたAzaleaに、Heatherは問いを放った。
「ところで、わたしはあなたみたいにこの世のものではない存在になっちゃったのかな?」
いや、この女は気付いている。Azaleaが人外の者であるということを——、その人外の力が彼女を救ったことを。
「Heatherさん、あの、それについてはわたしにもよくわからない。それで、申し出はありがたいのだけれど――」
「ちょっと待って。あなたが何を言いたいのかはわかるわ。わたしと一緒にいるのは危険だ、とか、そういうことを言うんでしょう? ええ、うん、わかる。あなたは特別な力を持っているものね、いつでも危険と隣合わせなんでしょう?
でも、待って。わたしは既に一度死んだようなものだし、役に立つわ。何でもする。あなたのためなら。奴隷のように、なんでもするから……、ねぇ、お願い。ほら、たとえば、これなんて、どう? あなたにあげるわ」
GAINED: Silver Ring
Heatherは差し出す銀の指輪を受け取らなければ、頑として動かなさそうだった。このままではLaCroixにまた文句を言われる。だけではなく、吸血鬼ではないHeatherには危険が及ぶかもしれない。
Azaleaは仕方なく、その指輪を取って頷いてやった。「お礼だけは受け取っておく。でも、勘違いしないで。わたしは大したことはしていない」
「でも、あなたはわたしの命を救ってくれた。それは間違いないでしょう? 生きたいっていう、わたしの願いを叶えてくれた。だから……」
「わかった……、わかったから。とりあえず、Santa Monicaのアパートに行ってて。病院の向かいの路地にあるから」
結局、Azaleaは押し負けた。そうでもしないと、Heatherは本当に何を仕出かすかわからなかったからだが、それだけではなく、「もうこれ以上問答をしたくない」という気持ちがあった。
Heatherがタクシーに乗るのを見届けてから、LaCroixのビルに入り、最上階へのエレベータに乗る。頭の中は真っ白だった。
空虚になった頭に流れ込んできた思考は、恐怖だ。
(まさか………、わたしの血で、あんなふうになったのだろうか?)
Santa Monicaの病院前で話しかけてきた男――Knox HarringtonというGhoulから、吸血鬼の血をある程度飲んだ人間は、少しだけ吸血鬼の力を得られて、治癒能力が早まったりするのだということは聞いていた。そういった人間を、Ghoulと呼ぶのだと。
あらかじめそんな話を聞いていたからこそ、Azaleaは大怪我をしていたHeatherに血を飲ませたのだ。
そしてElizabeth Dane号でも、Azaleaを庇って撃たれたArthurに血を飲ませた。そうするしかないと思った。あのときは。
だが。
(あの娘は、もともとあんなふうだったのだろうか?)
Heatherの「恩返しをしたい」という気持ちは、異常な域に達しているように見えた。あれはあの娘の性質なのだろうか? それともGhoulというのはみな、そうなのだろうか?
いや、Santa MonicaのMercurioやE.は違ったではないか。だが彼らは近くに主となる吸血鬼がいなかったせいだろうか。少なくとも、主に何かしら強い感情を抱いているのは間違いなさそうだ。
Arthurも、そうなってしまったのだろうか?
もう、Azaleaは違う生き物になってしまった。人間のArthurとは違う、夜の生物に。だから彼の元から逃げ出した。それなのに、それなのに――。
エレベータのドアがいつの間にか開いていて、Azaleaは慌てて外に出た。深呼吸をひとつして、Prince LaCroixの執務室に向かったわけだが、ドアを開けて中に入った途端、全身の血液が一瞬で抜かれたような悪寒に襲われた。
LaCroixの執務室には、Prince LaCroixとその護衛の男のほかに、4人の人物がいた。
若い粗野そうな男。
ビジネスマンのようなスーツの男性。
血のように赤いコートを着た禿げ頭。
そして妙齢の美女。
――すべて血族。
問わずとも、それはわかった。
硬直していたAzaleaの横をすり抜け、彼らは入れ違いに執務室を出て行った。
「――きみか。さて、なんてことをしてくれた?」
振り返って4人の男女が消えていった先を見つめていたAzaleaは、背後から聞こえてきた声に振り向きたくなった。
LaCroixの顔を見られず、Azaleaは彼のデスクの脚を見つめた。何も変わらない、木製の脚を。
「わたしの言ったことを覚えていないのか? 警察無線ですべて聞いたぞ! おまえは血族のマスカレードを脅かしたのだ! この、このっ……!」
彼が怒っているのは、AzaleaがElizabeth Dane号で警備員に見つかり、それだけではなく銃撃戦になったり、死亡者を出したことに関してだろう。わかっていた。だが、そうなってしまったのだ。
今にもデスクを叩き割らんとするようなLaCroixの権幕であったが、大きく溜め息を吐いて、穏やかな声調に戻った。幾分わざとらしくはあったが。
「で、船で何を見た?」
Azaleaは恐る恐る、船で拾った報告書を読み上げた。Ankaranの棺を引き上げたときの船員はすべて虐殺されたこと。ひとりの生存者もいなかったということ。
「で、だ。Ankaranの棺はどうなっていた? 開いていたのか?」
「床には血痕があって、開かれた棺の中には血の手形が見えました」
「ふむん、成る程。いや、結論を急ぐことはないな。もう少し調べてみることにしよう。――ところで、だ」
厭な予感がした。
「先ほどきみが部屋に入ってきたとき、出て行ったやつらがいただろう?」
「い、厭です」
「あれは各Clanの古老たちだ」Azaleaの言葉を無視して、Prince LaCroixは説明を始める。「自分たちの派閥のことしか気にかけないようなやつらだが、ここに集まっていたのはAlistair Groutの件があったからだ。Malkavianの古老だよ。彼と連絡が取れないのだ。さて、Groutの家だが、Hollywoodの丘にある。そこできみにGroutの様子を見に行って欲しいのだが……」
「厭です」
ともう一度、Azaleaは言った。
「わ、わたしはもう勤めは果たしました。だから、もう……」
「いいかね、わたしから直々に命令を発しているのだ。やってくれるね?」
「……厭です」
言葉にしながら涙が出てきたAzaleaだったが、LaCroixの態度は変わらなかった。
「行け」
吸血鬼にだけ見える力がLaCroixから迸る。血力だ。それはわかる。前回も受けた力だ。わかっている。わかっているのだが――。
「はい、わかりました」
Azaleaは抵抗できなかった。
帰りのエレベータの中で、Azaleaは背中を壁に預けたまま倒れそうになった。
LaCroixの血力に対抗するため、Azlaeaは己の血力を総動員した。抗えると思った。その結果がこれだ。力を使い果たした。おまけに警備員たちから幾分かの血を吸ったとはいえ、Elizabeth Dane号の中でも血を流し過ぎた。
(お腹、減った………)
HollywoodのGrout家に行く前に腹ごしらえをしなければ、タクシーの運転手を襲ってしまいそうだ。
Azaleaは獲物を探してDowntownの路地裏を回ってみるが、都合良く人気の無い場所に人がいるだなんてことはなく、歩いているうちにただただ空腹感が募った。
目端に入ってきたのは街角に立つ、派手な恰好の売春婦だった。
「ね、ねぇ……、いくら?」
己が言った言葉が、Azaleaには自分自身で信じられなかった。相手は、売春婦だ。かつて同じ職に就いていたAzaleaは、できるだけそうした部類の人間には声をかけないようにしていた。過去を思い出してしまうからだ。
それなのに、腹の下のほうから湧き上がる本能的な欲求には逆らえなかったのだ。
「わたし、女の子相手にはしていないんだけど……」と売春婦は怪訝な顔でAzaleaの頭から爪先までを見回した。「でもあなた可愛いし……、いいよ。他の子には秘密ね。40ドルでどう?」
Azaleaは息も荒いままに財布から40ドルを取り出して売春婦に押し付けた。
LOST: 40$
人気の無い路地裏に連れ込むや、その首に牙を突き立てて食事の開始である。あまり上等な血液とはいえなかったが、腹いっぱいに血を吸うことができた。
血を吸って、ようやく落ち着いて来た。財布の中を見る。残りは約300ドル。定収の無いAzaleaにとって、十分な金額とはいえない。
血液を吸われて呆然自失となっている売春婦を一瞥する。彼女から金を盗るのは簡単だ――が、かつて売春婦だったAzaleaにはどうしてもできなかった。
溜め息ひとつ吐いて路地裏を離れようとしたときである。男の叫び声が鼓膜を叩き、Azaleaは飛び上がりそうになった。
誰かに血を吸う現場を見られたのか。Azaleaはそう思って周囲を見回した。声が聞こえてきたのはフェンスで仕切られた区画にある古びた建物からだが、どうやら病院のようだ。廃病院だ。
(もし、誰かに見られていたら――)
Azaleaは廃病院のドアノブに手をかけた。
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