展覧会/『ラストクロニクル』/第15弾フレーバー考察(前編)
この世界はヴァルハラ宇宙と呼ばれる多次元宇宙の中のひとつである。あらゆる出来事は始祖の神ザインが記した書物、クロノグリフに刻まれている。
しかしそのクロノグリフのページにはところどころ空白がある。つまり、自由に書き込めるということだ。つまり、書いてしまえば思いのままということだ。つまり、勝てば官軍なのだ――こうしてアトランティカ、レムリアナ、レ・ムゥという3つの世界での戦いは幕を開けていた。
第15弾での戦いは、それらこれまでの戦いとは少し毛色が違う。
なお、何度か書いてはいるが、このフレーバー考察は「フレーバー考察」であり、たとえばハンドブックに矛盾した記述があったり、ハンドブックに上位記述があったりした場合でも、フレーバーを優先させている。
ただひとつの設定についてはハンドブックの内容から理解を入れておく。それは、今回の舞台である悠久の神闘場にはさまざまな時代、さまざまな世界線のアトランティカ、レムリアナ、レムゥから英雄たちが集められたということである。
集められた英雄のうちのひとり――レ・ムゥの《戦龍騎兵長 カイ》が語るところでは、この神闘場での戦いを抜けた先には真の歴史の果てがあるという。ストーリーラインでもこのことについては叙述されており、曰く、
この奇跡の戦いに勝利することで、"始まりと終わり"の無限の環が結ばれ、ザインとヴァルハラを継ぐ者、真なる時空の覇者の座に手が届くと信じて――とのことである。
ザインの使途――すなわちプレイヤーに関しては、その程度の知識で良い。なぜならば我々ザインの使途はゴリラでありチンパンジーだ。イエティだ。ヒバゴンだ。ライオンイーターだ。目の前に敵がいれば、戦わずにはいられない。だが神闘場に召喚された英雄たちはチンパンジーではありえない。ウホウホウホホ、ウホウホホ。
だが彼ら――召喚された英雄たちは違う。チンパンジーではない。
それでも、彼らは戦う。
今回の彼らはいわば、召喚英雄だ。
→第1弾フレーバー考察で書いたように、召喚英雄たちは召喚された時点で必要な知識や目的意識を持っている。たとえば《ハンニバル・バルカ》は、アトランティカやヴェガが故郷ではないにも関わらず、戦いの決意を固めていた。そういうものなのだ。召喚英雄というのはいわば洗脳兵だ。
彼ら現地英雄はこれまで召喚英雄を洗脳して使っていた――だが今や、己らも同じ立場になったのだ。戦う理由も知らぬまま、己の利と信仰すら見いだせぬまま、戦うために戦う存在に。
既にこの場に怖気づくものはいない。すべての者どもは洗脳され、戦うことしか考えられない。手には武器があり、目の前には敵がおり、周囲には観客たちがいる。
こうして何にも縛られない戦いが始まった。
果たしてこの〈神闘場〉と呼ばれる世界はなんなのか?
それを語る前に、まずこの場の象徴的な存在として、5つの「神柱」について語らなければいけないだろう。
【歴史的事件】のカテゴリを持つこれら神柱にはそれぞれ3つずつ絵が刻まれており、フレーバーでは以下のように説明されている。
- 白:〈聖戦の雄々しき戦士〉、〈神秘なる運命の導き〉、〈恐れる大破壊の記憶〉
- 橙:〈大種族の栄え〉、〈真の強者の昇天〉、〈英魂の酒宴〉
- 紫:〈神話の闘い〉、〈武と角持つ者どもの栄〉、〈天をも焦がす帝軍の誇り〉
- 黒:〈滅びた夢〉、〈狂気の悲哀〉、〈魔の軍勢の姿〉
- 青:〈蒼剣の天翔〉、〈災厄を押し留める英知の結晶〉、〈水底の神話の目覚め〉
デジタルデータは劣化が激しく、紙も長期保存に向かないものだ。世界のすべてを叙述するクロノグリフというのはこうした石に刻まれていてもおかしくはない。
→第1弾フレーバー考察で引用した《トウアの技術教本》のフレーバーで述べられているジョークの通り、クロノグリフは分厚い。今弾ではクロノグリフでさえもカードとして登場しているが、これらのスケールは定かではない。当たり前だ。宇宙のあらゆる出来事を叙述している書物が、ジーパンの尻ポケットに入ってたまるか。一見して手に取れるような大きさでありながら、世界ひとつよりも長大なのかもしれない。
であれば、この石が実際にクロノグリフの一頁を刳り貫いたものでもおかしくはないような気がするが――この神柱たちの正体については後編に譲る。
閑話休題。
神柱群についてまずわかりやすいところから見てみると、黒だろう。左に位置する神柱に描かれているのは陽光の《悲哀の果てに》であり、これは〈狂気の悲哀〉に対応するのだとわかる。中央に描かれているのは明らかにアトランティカの《黒騎将 ウーディス》で、これは〈魔の軍勢の姿〉だろうか。とすると右は天空世界からのはずで、外見から《慟哭城の黒姫 ベルファーラ》の生前の姿を描いた〈滅びた夢〉であることがわかる。
これは他の色にも言えて、たとえば橙の〈大種族の栄え〉であれば明らかにオセロテ4姉妹(5人)を表しているのだが、さらに踏み込むとこれは今回の召喚されている英雄の中にこのオセロテ4姉妹の関係者がいることを暗喩しているのではないかと考えられる。すぐに思いつくのは《千年森の金陽姫 ウルディー》である。
このようにそれぞれの神柱を各世界、および今回のカードと対応付けていくと、以下のようになる。
- 白:
- 〈聖戦の雄々しき戦士〉→中、陽光?
- 〈神秘なる運命の導き〉→右、【戦導姫】たちとセレネカ、クロルト→《蒼聖女 セゴナ・シャダイア》に対応
- 〈恐れる大破壊の記憶〉→左、アトランティカの《龍王の厄災日》→《始祖龍王 ヴィルフレイマ》に対応
- 橙:
- 〈大種族の栄え〉→右、天空のオセロテ→《千年森の金陽姫 ウルディー》に対応
- 〈真の強者の昇天〉→中、アトランティカの《女拳聖 ベルカ》の昇神→《天地命刹流の拳師 オズマ》に対応
- 〈英魂の酒宴〉→左、陽光のオルバランの酒宴→《魂石村の投石猟兵 マルチナ》もしくは《野性の知恵者 ヴァロン》に対応
- 紫:
- 〈神話の闘い〉→中、アトランティカのシグニィと嵐の王の闘い→《嵐王邪龍 ヴェルヌ・カムダ》に対応
- 〈武と角持つ者どもの栄〉→右、陽光のミレイカとバルダーの戦い→《勇承の双角 ミルテ・ヴォルテ》に対応
- 〈天をも焦がす帝軍の誇り〉→左、天空の《魂爆弾》など→《紫炎烈火の大勅命》や《覇炎皇后 スウ・ア》に対応
- 黒:
- 〈滅びた夢〉→右、天空の慟哭城の客分たち→《愁美なる暗哭姫 ベルファーラ》に対応
- 〈狂気の悲哀〉→左、陽光の《悲哀の果てに》→?
- 〈魔の軍勢の姿〉→中、アトランティカの《黒騎将 ウーディス》との戦い→《ゲーデの禁呪法》に対応
- 青:
- 〈蒼剣の天翔〉→左、アトランティカのイズルハ、ミズキ、リン→《大氷結術師 リン・ヒナセ》に対応
- 〈災厄を押し留める英知の結晶〉→天空の《極凍静止結界》→《冬色の魔極風 エルダ》や《霜色の継承儀式》に対応
- 〈水底の神話の目覚め〉→陽光の《神青満ちし青陽》→《連波の青光術師 ルル・ミア》に対応
橙の左、陽光の〈英魂の酒宴〉に関しては繋がりが曖昧であるが、呼称や状況を鑑みれば複数人の英雄が写り込んでいるため、誰が召喚されても不自然ではなかろう。
紫の中央、アトランティカの〈神話の闘い〉は中央上部にスワントが描かれており、EPICの男性スワントがこれまで存在しなかったことから、精霊王《第二界の雷皇 シグニィ》が【スワント】であったことがわかる。
また、青の中央の〈水底の神話の目覚め〉についてはやや分かり難いが、流れる水や形状から背景の建物が《神青満ちし青陽》と同じであることがわかる。
であれば、明確な個人は特定できないが、関連するのはミスティカの【人魚】や【リザードマン】で、今回であれば《連波の青光術師 ルル・ミア》であろう。真ん中青陽の建物っぽい?— motix (@motix07) 2017年4月26日
ただ一部、よくわからない部分がないでもない。それが白と黒である。
《輝ける光史の神柱》のわからない点は、そもそも何が描かれているのかよくわからないという点である。
左右がアトランティカと天空であることは間違いないため、陽光の風景が描かれているのがわかる。もともと明るさだとわかりにくいため、露出を上げて白黒にしてみると以下のようになる。
前後(絵中の手前と奥)で戦闘が起きているように見えるのは〈聖戦の雄々しき戦士〉という表現に沿うものである。もう少し詳細に見てみると、手前側、画像ではいちばん下の右側にいる人物はハンマーを持っているように見える。ハンマーを持った人物というと、陽光では《希望の双光 ソル・バル兄弟》か、《赤魔将 豪砕のダズール》しかいない。
さらにその左の人物を見てみると、刀を抜いているように見える。となると、陽光編では和の要素を持つのはメレドゥスだけなので、これが《紫魔将 風牙刃のロム・スゥ》であり、手前側が五魔将なのだろうと予想がつく。下段の五魔将のうち、左上に二体いるように見えるのが《白魔将 邪銀巧のマルドゥナ》、中央の魔術師が《青魔将 魔氷のエンディオ》、右上は見えにくいが《黒魔将 瘴気のゲーデ》だろう。
ということは逆に上段の人物たちはそれに敵対する連合軍ということになる。具体的には最終戦で五魔将と戦った者たちで、おそらくは真ん中で剣を構えている長髪の男が《再臨の銀聖王 アスハ》ということになるだろう。で、あれば、この神柱で呼び出しているのは《アスハ》かその関係者のはずなのだ。
だが奇妙なことに、《アスハ》やその関係者は15弾では見当たらない。
たとえば《ゲーデの禁呪法》は謎の多いフレーバーで、これは白の神柱に映る五魔将を反映していると取れなくもないが、これは黒であり、《輝ける光史の神柱》で呼び出されるはずがない。白のカードとして呼び出されなくてはいけないのだ。
たとえば白の陽光出身のユニットでオートマタの《輝ける機士姫 オレーゼ》がいるが、機械的な存在であるという共通点や出身国は同じであれど、《アスハ》との繋がりはやはり薄い。
たとえばレムリアナに行ってしまった《蒼聖女 セゴナ・シャダイア》も、やはり繋がりは薄いだろうし、《セゴナ》に関してはむしろ右の【戦導姫】たちとの関連のほうが強いように感じる。スペルやヒストリーにもそれらしいカードはなく、白のマルチソウル二種はどちらもアトランティカ出身である。
残る可能性はひとつ。
彼については聖王家と言っているけどアトランティカの聖王家とは限らない説、髪の色が似ているのでディアーネの息子説、顔が似ているからアスハ説、白く染まったので野獣先輩説などが出ていたが、15弾のフレーバーではあっさりとその正体は特にひねったところもなく、グランドールの将であったことが明かされた。
→第5弾フレーバー考察で見たように、第5弾ではグランドールを憎みロジカの元首となっていた《聖史の逆理者 ロギナス》だが、こちらは別の世界線――グランドールを恨むことなく将であり続けた存在といったところか。
この《ロギナス》が白の神柱から――アトランティカの人物であるにも関わらず――召喚されている可能性はないだろうか?
というのも、《ロギナス》というカードには疑問があるからだ。
ひとつは、このフレーバーでは彼の出身世界の《ロギナス》は非常に有名人であることを伺わせる。もちろん彼が単に尊大な人物というだけかもしれないが、《ロギナス》が真に高名であったのならば、なぜ彼が【ロジカ】として襲来した際に彼を知る人物が誰もいなかったのか?
あるいは第5弾でのアトランティカ世界線では、《ロギナス》はグランドールの将となり名を挙げる以前に国を追われた可能性もないではない。だがそれならそれで、グランドール出身であったはずの彼に関する知識がまったく存在していないのが疑問である。
もちろん単純に、彼がやって来たという「未来」が遥かな未来であり、であるがゆえにアトランティカの誰もが知らなかった可能性もあるが。
もうひとつの疑問点は、《ロギナス》の背景には巨大な鳥の姿が描かれているが、これについての言及がフレーバーでは一切されていないことである。肩には羽を模した飾りがあり、背後の鳥も合わせるとどちらも羽を象徴しているのが気にかかる。
こうした疑問点が解き明かされないのは、単純に情報が足りていないせいなのだろうか?
たとえば《血牙の闇色魔女》のフレーバーでは〈血公子〉と呼ばれる吸血鬼に言及しているが、天空レーテのEPIC男性吸血鬼は存在せず、設定だけが残されているのがわかる。
こんなふうに、《ロギナス》の背景も設定だけが残された結果なのだろうか?
いや、必要なのは想像力だ。想像して足りないのなら妄想で補えば良い。そこでたとえ正しい答え――滝先生の用意した設定と衝突するような事態となったとしても、戦えば良いのだ。なぜならこちらはザインの使徒であり、ゴリラなのだ。ぶち壊せ、世界を。破壊せよ、設定を。叩き壊せ、トロフィーを。悪いのはすべて藤田Pだ。
まずひとつ目の疑問――なぜ第5弾時点で《理法の元首 ロギナス》の正体に誰も気づかなかったのかという問いだが、それは単に時代が違ったからという答えのほかに、我々が知るアトランティカでは《ロギナス》は《ロギナス》として存在しておらず、また《ロギナス》が《ロギナス》であると思ったとしても別に《ロギナス》が存在していたから《ロギナス》とは想像できなかったという可能性が《ロギナス》。
もう少しわかりやすく言えば、《ロギナス》は他に既に登場しているのだ。名を、姿を変えて。
ありがとだよ!じゃそれまでに設定とか語り尽くせるようにまとめとく宿題ね!— Sigs (@sigs_rain) 2017年5月13日
ギジェイの弟子のロウ・ギュネスってロギナスっぽくない?とかそういう...
→第6弾フレーバー考察のときにも引用した《可能性の黒極神 ダロス》フレーバーに登場する〈ギジェイの一番弟子〉ことロゥ・ギュネスは名前からして奇妙だ。
あるいは《黒の覇王 ザルス・ヴァ・ラム》のようにバストリアではこうした名前が普通なのかもしれないと、そんなふうに思わないでもないが、やはり奇妙は奇妙である。
日本では苗字を名乗るということは高い位にある貴族にのみ許される特権だった。なぜならば、農民に姓など意味がないからだ。産まれて死ぬだけの存在だからだ。最低限の名以上には区別する必要などないからだ。
であれば、ロゥ・ギュネスは相応に立場のある人物か、名前が偽名かーーでなければどちらも正しいということになる。我々の知る世界で、彼はロゥ・ギュネスと名乗り、《狂魔技官 ギジェイ》に師事していたのだ。であれば、【ロジカ】の技術の結晶である《神威の抹消者 ダロス》に《ギジェイ》の作り出した《クロノウォーマシーン》などに似た性質があったことも頷ける。
では次なる疑問は、《ロギナス》の背景の鳥や羽根飾りは何を意味するのか、だ。
これについては簡単である。冒頭の疑問をそのまま昇華させれば良いのだ――つまりは、《ロギナス》は《アスハ》に連なる人間であるのだ、と。【天使】に連なる存在であるから羽を象徴した飾りを持ち、鳥を従えているのだ、と。
《ロギナス》のカテゴリは【人間/武将】であり、けっして【天使】ではない。だが陽光世界の【天使】さえももともと【天使】だったのではなく、血の通った存在であったことを示すことは《アスハ》のフレーバーからも示されている。
そもそも【ロジカ】は時空を超えてやって来たわけだが、時空を越えるというのは時も空間も越えるということである。
とすれば、世界を渡ることも似たようなものではないのだろうか。
【ロジカ】は滅史の災魂と災害獣によって混乱したクロノグリフを利用して時空を超えてやって来たという。だが、世界が混乱しただけで時間を超えられるのなら、どこもかしこもお祭り騒ぎだ。それ相応の設備があったからこそ、時空を超えられたのである。三世界十五カ国中で随一の科学力を誇るのは、【オートマタ】や【天使】を誇るレ・ムゥのシャダスである。
少し話は逸れるが、《アスハ》と同様に最後までレ・ムゥに残って戦ったと思われる《勇麗なる神角将 ミレイカ》に関してだが、これは《勇承の双角 ミルテ・ヴォルテ》で少しだけ言及されている。
ここで「見ていてください」というのは「草葉の陰で見守っていてくれ」というニュアンスに近いだろう。もし《ミレイカ》が存命であり、神闘場に呼ばれたのであれば、わざわざ【神角将】の位を譲る理由などない。大怪我をして退いたのであれば、神闘場には呼ばれないから見ようがないので、「見ていてください」とは来ないだろう。であれば、死んだかーー少なくとも消息不明ということだ。形のない影に向かって、見ていてくださいと言っているのだろう。
で、あれば、《アスハ》も同じだろう。彼はやはり、最後までレ・ムゥに残ったのだ――そして生き残った。
その生き残った《アスハ》の子孫が《ロギナス》で、《狂暦の魔覇者 ゴズ・オム》がいなくなったレ・ムゥからアトランティカに移ったのか?
《ロギナス》が恨んでいるのはグランドール聖王家ではなく、シャダス聖王家なのか
《アスハ》自身が王なのだから、恨むも何もないような気がするが、どこかで情報伝達に齟齬が生じた結果なのか?
この仮説にはどうにもしっくりこない。
というのも、あくまで《ロギナス》が恨んでいるのは「聖王家」だからだ。シャダスという国そのものを恨むのは、「祖先の《アスハ》が自分の身を犠牲にして敵を食い止めた」という事実が情報伝達の過程で失われてしまい、「敵前にいる《アスハ》王を見捨てて国民たちは逃げ出した」という理解になったことで逆恨みになることは考えられないでもない。だが、それなら恨むのは「聖王家」ではなく、あくまで「聖王国」という国(あるいは国民)になるはずだ。
逆だ。そう、逆なのだ。何もかもが、逆なのだ。
(→後編へ続く)
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