FreesideのNCRの責任者だというElizabeth少佐という女は変わった女だった。
「ここにある食べ物も水も、すべてNCRの市民のためのものだから自由に持っていって。遠慮しないで」

Elizabeth少佐らNCRの兵士はNew Vegas、Freeside地区の隅の一角のかつて駅があった場所に面する荒れ果てた建物の中で、住民に食料や水を配っていた。受け取るFreesideの住民もNCR兵士も格好は薄汚れていながらも笑顔で、正直なところSiにはそれが薄気味悪く感じられた。
家屋の中の人々の様子を観察する。配給を受け取っている市民に武器を持っている様子は見られない。NCR兵士のほうはライフルを装備してはいるようだが、手に構えるなど威嚇する様子は見えない。警戒する様子を見せていないのは、ここで配給を受け取っている人々がNCRに協力的な立場にいる人間だからだと気付く。この家屋の入口でNCRに友好的かどうか確かめられたことからも推定すると、Freesideの住民すべてがここで配給を受け取れているわけではないのだ。


Siは食料を受け取りつつ、Elizabethに礼を言った。
「どういたしまして。もし食料や水が必要な人がいたなら、その人にもここのことを教えてあげてね」
「あんたはNCRの兵士だっていうけど、本当か?」
教会で物資を配るかのように笑顔で配給の受け渡しをするElizabethに、Siは尋ねていた。まるでNCR軍人には、それも少佐という立場の人間には見えない。
「ええ。NCRで補給部隊の少佐をやっていてね。ここの食べ物や水は補給部隊のものなの」
「ここの物資はFreesideの住民に配るためのものなのか?」
「Freesideの人すべてに配給しているわけじゃないの。そうできたら良いんだけど……」Elizabethは少し躊躇った様子を見せた。「あなた、Freesideの人で物資が必要な知り合いがいるの?」
Siは肩を竦めてみせた。「どうして配給の相手を区別しているんだ?」
Elizabethは薄暗い家屋の中でようやく一般市民にしては整ったSiの装備に気付いたのか、不審げな視線を見せた。「あんまり歓迎したい話題じゃない。いろいろ理由があるの」
「おれはJulie Farkasに言われてここにやってきた。最近のNCRとFreesideのことで話が聞きたい」
Siがそう言うと、Elizabethは驚いたという表情になった。

掻い摘んで、最近のNCRとFreesideの抗争について調査していることを説明する。ただしSiがNCRのRangerであること、The Kingから依頼されてこの調査を行っていることは伏せ、あくまでJulieの一友人としてFreesideの保安に協力しているということにした。
「もしあなたがほんとうにJulieの友人で、Freesideの問題の解決に協力してくれるというのなら……、The Kingのところに行って、この支援活動を認めてくれるように改めて伝えてくれない?
「改めて?」
「以前に彼らに向けて送った使節が襲撃されたの。おかげでわたしたちの部隊は重要な任務を破棄せざるを得なくなった。どうにかしようとしたけど、いまの拙い物資状況じゃあどうにもならない。The Kingsの協力がなくっちゃ、Freesideの住民すべてを潤すほどの余裕がないの。でも」とElizabethは腕を組む。「状況は刻一刻と変わってきてる。いまはいがみ合っている場合じゃない」
「襲撃って、だれからだ?」
Elizabethは首を振る。「わからない。The Kingsかもしれない。でも、そうやって疑ってばかりじゃあ話が進まないでしょう?」Elizabethは付け足した。「Julieにもまた会ったらよろしく言っておいて」

小屋の前で待っていたArcadeを連れて、Siは演劇学校へ向かう。
NCRとThe Kings、そのどちらもが何者かに襲撃されていたというわけか」とSiから話を聞いたArcadeが呟くように言った。「いや、襲撃されたのはThe Kingsじゃないな。Freesideの住民か」
「The Kingsが何か企んでいるってこと?」
Sumikaが言ったが、Arcadeは彼女の言葉がSiから発せられたものとして受け取ったようだった。「もしThe Kingsが総意で、あるいはリーダーたるThe Kingがこの混乱を招いているというのなら、そもそもきみに事態を解決してほしいなどとは望まないだろう。ということは、答えは簡単だ」
SiにもArcadeの言葉は納得できた。「The Kingで人を動かせるような地位にいるやつか」
「そう」Arcadeは大仰に頷く。「The Kingsに所属していて、一定の地位があり、人を動かせ、馬鹿で、不細工で、名前がPから始まる人物の仕業に違いない」

そのThe Kingsに所属していて、一定の地位があり、人を動かせるだけの権力を持っている、馬鹿で、不細工な名前かがPから始まる水虫の男が、演劇学校に入ってきたSiに声をかけてきた。
「あんたがNCRのご婦人から、やつらがおれたちに派遣したメッセンジャーに関するちょっとばかし暴力的な話を聞いたっていうのを小耳に挟んだんだがな」とPacerは下から見上げるように言った。「なぁ、The Kingの耳を煩わせるような、まったく馬鹿げた話だと思わないか? あいつらのメッセンジャーってのは、単にFreesideで一日過ごせるほどタフじゃなかったってだけだろうに」
Siは何も答えずにいた。Arcadeも。
「ま、そういうわけだから」とPacerは顔を仰け反らせる。「わかってるだろうな? その口を閉じておくんだ」
「で」Siは溜め息を吐いてみせた。「おれが何も言わないでいることはどれだけ価値がある行為なんだ?
「あんたは運の良いやつとしておれの心に刻んでおいてやるぜ」
「で?」

「オーケィ」Pacerは首を振り、ポケットからCapsの束を取り出した。「これで十分だろう。あとは口を閉じておくんだ。おれはもう行かなきゃならん。大事な仕事があるんでな」
まくし立てるだけまくし立てて、Pacerは演劇学校を得ていってしまった。

Siは受け取った金をその場で数えた。
「Si……、まさか」Sumikaが心配そうに耳元で囁く。「本当にThe Kingに何も伝えないつもりじゃないよね?」
「まさか」Siはポケットに金を仕舞った。「300Capsしかない。これじゃあここの通行料にもならんな」

The KingはNCR補給部隊の兵士がFreeside地区の一角に隠れていること、彼らがNCR市民に対して配給を行っていることには驚きを見せずに聞いていたが、Freesideの住民への円滑な配給のためにNCRが以前にメッセンジャーを送り、それが途中で襲撃されたという話を聞いたときには表情が変わった。
「なんだって?」
「NCRはあんたのところに使節を送っていたんだよ。でも途中で襲撃されてあんたのところまで届かなかった」
The Kingはしばらくの間膝を指で叩いていたが、やがて「なるほど」と言った。「そういうことか。ようやく合点が言った。つまり、お互いに誤解があったってわけか。それで……」

話を続けようと思ったとき、ホールにThe Kingsのメンバーのひとりらしい男が駆け込んできた。ひどく焦った様子だ。

「The King! 緊急事態です!」
「失礼」とThe KingはSiとArcadeに言ってから駆け込んできた男に視線を向けた。「まぁ落ち着けよ。で、なにがあった?」
「Freesideの廃駅の近くで銃撃戦が起きています! Pacerと、あとたぶんNCRが……」
The Kingは苦々しげに首を振った。「なんてこった」

Dum vitant stulti vitia, in contraria currunt.だな」
Arcadeの呟きにThe Kingが反応した。「なんだ?」
馬鹿は自分の前が見えていないってことさ」

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