調査から戻ったキャプテンドクターらは船内修理にあたっていた技師サイバネティストとともに比較的損傷の少なかった休憩室に集まっていた。生物学者は調査途中で捕まえた動植物の解析にあたっている。

サイバネティストとヴェルダンディが墜落原因について説明している中、キャプテンは調査中に自分が発見した人影について報告したくてうずうずしていた。既に同行していたドクターと生物学者にはこの話をしていたが、彼らは事故の報告が終わった後にIAの内容の解析をしてみよう、と言っただけだった。
「で、結局なぜ墜落したか、ですが、ヴェルダンディは原因がこの惑星にあるって言っていますね。船体本体には何ら問題はなかった、と」サイバネティストがコンソール・ディスプレイを指して言う。「実際に、プログラムの表層化でエラーは生じた形跡がありませんし、ドライバ関連も問題がなかった。破損してしまったところは調べようがありませんが、駆動機関も怪しいところはなかったそうです」
『言い訳しているわけではありませんが、その通りです。そしてこの惑星に存在する問題ですが、東北東方向19.2kmの地下およそ200m深層から周期的な妨害電波が発生しています。人為的なものか、それとも自然現象であるかは不明ですが、現在までの解析ではその妨害電波が墜落原因に間違いないと思われます』
電磁シールドはどうなってたの?」キャプテンは疑問に思って尋ねた。
『電磁シールドは作用していましたが、妨害電波の周期変動が激しく、船全体では対応しきれませんでした。現在、非定常的な妨害電波に対する電磁シールドと、対妨害電波発生装置の案を作成中です』
「機具が使えないんじゃ、案ができてもなかなかできないだろうけどね」と技師が独り言のように口を挟む。
『次に本惑星についてですが……、星間図には載っていない惑星であることは間違いありません。太陽として恒星を持つ、一般的な惑星です。公転周期は不明ですが、自転周期はおよそ25時間。衛星の数は不明。地球生命の生存可能な惑星であり、地球外生命体が存在している模様です。この地球外生命体に関しては、エレナの報告を待ちたいところですが………』

タイミング良く休憩室に生物学者が入ってくる。入ってくるなり四人の目に見つめられて驚いたのか、彼女は軽く肩をすくめた。
「続きどうぞ」
『あなたの解析が終わったのなら、そちらから先に聞きたいと思っています』
「うーん、そんなに進んでないけれどね。じゃあ、簡単にわかったことだけかいつまんで説明しちゃおうか」生物学者はヴェルダンディに頼んでディスプレイの表示内容を切りかえる。映されたのは蛇、蝶、桃色の花、樹木の表皮、さらに土砂らしきものだった。「このへん、取ってきたものね。全部この惑星にあったもの。水も欲しかったんだけど、泉とか池が見つからなかったから、まぁ今回は良いとして……、見てわかる通り、ほとんど地球の生物と代わりない姿をしているね。実際、これらは炭素基系の生物であり、そのDNAはA、T、G、Cの四塩基から構成された二重螺旋構造となっている。アミノ酸も左旋性だから、ほとんど地球生命と同じだね。まぁ噛み砕いていえば、これらの生物は食べられるってことだね」
シェクリィにならないで良かった」とドクター。

(シェクリィ?)

知らない単語が出て、焦る。キャプテンという立場上、彼女には他の乗務員の分野についてはある程度把握しておく義務がある。先ほどの単語がどういう意味か気になるが、他人に質問してしまうということは、統率者であるキャプテンとして勉強が足らないと思われないだろうか。

SF作家の名前だよ」彼女の葛藤がわかったのか、サイバネティシストが小声で教えてくれた。
なんだ、SF作家の名前か。ということは食糧難に遭うSF作品でもあるのだろうか。気にはならないが、紛らわしい相槌を打ったドクターに腹が立った。
「で、どこまで似ているんだい?」ドクターが質問する。「まさか、遺伝情報まで地球のそれと同じってことはないだろう?」
「そうですね、そこまでじゃありません」肯く生物学者。「細かいDNA構造まで解析したわけではありませんが、おおよそ見た限りではDNAを形作っている素材が同じなだけで、地球生命のDNAとはまったく違います。ぜんぜん違う生き物どころか、生物と非生物くらいの違いがありますね。たとえば地球生物で見るとそのDNAは形態が違っても、たとえば人間とサルなら99%以上同じですし、哺乳類と植物でも似通った部分があります。もともとの起源が同じなので、似通った部分が残っているというわけですね。ですがその部分が見当たらないということは、この惑星の生物は地球とはまったく異なる進化経路を辿ってきた、ということになります」

キャプテンは情報を聞き漏らさぬよう、姿勢を正して生物学者の話を傾聴する。このメンバーの中で自分は二番目に年少だが、ここでは責任者なのだ、と思いつつ。

「ですが……、それは遺伝子全体で見た話です」生物学者の話は続く。「ゲノムのコーディング領域、つまり、働いている遺伝子のみに目を向けてみると……、コーディング領域の特定ができているわけではないですが、機能の担い手が多いと思われるもののみを取りだしてみると、ですね、そうすると、地球の生命によく似た特徴が表れていることがわかります」
ディスプレイが模式的に二重螺旋をあらわした図に切り替わる。二つ表示されていた二重螺旋が移動し、重なる。
「そうそう、ヴェルダンディ、上手いね」生物学者はディスプレイに言ってから向き直る。「こんな具合に、重なっちゃうわけですね。まるで地球生命を真似ているみたいに

沈黙。

「あ、以上です」生物学者が言って、着席した。
「あれ、終わり?」ドクターが驚いたような声を出す。「まだなんか、考察するところがあったような気がするんだけど………」
「まだ解析はじめてからほとんど時間が経ってないんですから、こんなものです」

ドクターがキャプテンに視線を向けた。先ほど見た人影について話せ、と言いたいようだ。
キャプテンは肯き、崖下に見えた人影と、それを写したIAをヴェルダンディに表示してもらった。IAに映っていたのは紛れもない、人間型の生物だった。頭髪は黒く、体色はやや浅黒く、しかし服を着ており、背中にリュックのようなものを背負っていた。

「これがこの惑星の先住民なのか、それとも我々以外にこの星に不時着した人間なのかはわかりません。ですが、リュックを用い、衣服をまとっていることから、人間同様の知性を兼ね備えた生物であることは間違いないと思われます」
『その人間についてですが』ヴェルダンディが割り込んでくる。『この惑星の先住民の可能性が高いでしょう。こちら、ドクターが発見した集落の映像です』

ディスプレイの映像が切り替わる。中世のような町並みの中、歩き回る、ほとんど人間にしか見えない人々が写されていた。人々の服装はさまざまだが、特異すぎるというものはない。

『収集した音声がこちらです』
なんとも言い難い騒音が聞こえてくる。大部分が人の声のように聞こえるが、しかし知っている言語はなかった。
『おおよそ人間の発する周波数のみをフィルタリングして抽出したものですが、ご覧の通りです。もしあの集落に居住しているものたちが、あなたがたと同じ起源を持つ元地球人であるならば、言語もそれに習ったものである可能性が高い。ですがそうではないということは、もともとここに住んでいた先住民であるか、もしくは地球由来の生命であったとしても、文明が失われる程度に年月が経った世代である、ひいてはほとんど先住民と変わらないものである可能性が高いものと思われます』
「これ……、集落のほうまで見ることってできてたの?」キャプテンは訊いてしまっていた。
『はい。不時着直後は機能停止状態でしたが、プリシッラによって望遠カメラも集音機も使用可能な状態となりました』

(つまり、私の情報は意味がなかったってわけだ)
既に人型生命の情報をヴェルダンディは得ていたらしい。

『現在の優先課題は彼らとコンタクトを取ることでしょう。初の地球外生命体とのコンタクトになる可能性が高いですし、彼らに恐怖を与えず、また支援を仰ぐためにも彼らとの友好的な接触は必須事項であるといえます。今のところ、私は機能の一部を彼らの言語解析に当てています。周波数によって個々人の会話のみを抽出することは可能なので、既存の言語基系に近いものならばその解析と翻訳はさして難しくないものになるでしょう。ただ、私だけでは確からしさの値を明確に算出することができない単語や、解析の基盤となる仮定を得るのが難しいと思われますので、できればダリウスとケイイチロウに手伝っていただけると解析が非常に楽になると思われます』
名を呼ばれたサイバネティシストは頷く。彼はサイバネティシストとコーディネイターを兼ねているが、言語学などにも詳しい。「そうだね。手伝おう」
「僕はちょっとやることがあるから遅れるけど……、後から手伝うよ」とドクター。彼は技師を振り返り、尋ねる。「ちょっと医務室の機器の調整を手伝って欲しいんだが、良いかな?」
技師は無言で頷く。
「私はサンプルの細かい解析に当たるけど……」生物学者がキャプテンを見やる。
やることがない。
こういうときに、キャプテンという立ち位置は存外に困る。

ドクター
氏名 朝永敬一郎
性別 男性
年齢 34歳
経歴 大学病院に勤め、臨床経験に篤い医学研究者。研究内容は心療内科が中心で、今回のSETIプロジェクトでも主に乗員のメンタル・ケアを担当しているが、内科・外科の心得もあり、救急隊員として活動していた経歴も持つ。生物学者と同じく、推薦されてSETIプロジェクトに参加。技師とは遠縁の親戚筋で、大学時代までは同居していた。

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