展覧会/『ラストクロニクル』/第14弾フレーバー考察
第三の大陸レ・ムゥでの最後の戦いが始まった――そう、このときはまだ、戦いと呼べるものだった。たとえ《黒覇帝 ゴルディオーザ》率いるメレドゥスの快進撃は止まるところを知らないとはいえ、まだ敵が敵としての形を保っているうちは。
だが時間が経つに従って、それは戦いと呼べるものではなくなっていった。
既に陽光2の時点で予想されていたように、ゴルディオーザは《滅史の災魂 ゴズ・オム》であり、《狂暦の魔覇者 ゴズ・オム》である。《宝種複製邪法の完成》に伴い、彼は万物の記述改竄の秘術を見出し、それを実行した。陽光世界はゴルディオーザの思うがままに作り変えられていった。千年夜の到来である。
その中で早々に戦いを諦めた者がいた。
《目覚めし黄金覇者 アルマイル》は既に戦いを見限っていた。敗北を認めていた。兄代わりの男を殺し、姉代わりの女を奪った男への敗北を認めたのだ――だが何もかもを諦めたわけではなかった。
彼女が向かったのは戦場ではなく、神話森であった。《黄金儀式の大神官 ハルモネ》の協力を得た彼女は、災害そのものと化したゴルディオーザと真っ向からぶつかるのではなく、黄金儀式によって己の魂を亜神と化し、最悪の結末を防ぐという選択をしたのだ。
黄金儀式がどのようなものであったかは定かではないが、それは勇者を亜神へと導くものだという。亜神というのは、すなわちアトランティカでいうところの精霊神のようなものだろう。現世での生を捨て、世界を精霊力で満たして平定させる存在であり、どこの世界でもそうであるように、神になるというのは死に近い。
アルマイルは迷わなかった。
黄金の太陽と化したアルマイルは一条の光の道を指し示した。誰が言うでもなくそれは黄金航路と呼ばれ、災害から逃れる術がそこにあるという話はレ・ムゥ全土に一瞬にして伝わった。
歩兵の本領
もはや戦いと呼べるものは少なくなっていた。相手が災害の獣であり、こちらは牙も爪もない身であるとすれば、それは虐殺であり、せいぜいがそれから逃れるための遁走でしかなかった。
だがその中でも、己を牙と爪とし、最後まで災害の獣に抗う者たちがいた。
シャダスでは《再臨の銀聖王 アスハ》が身を護る術もない民草のための最後の砦となる決意を固めていた。
彼は王であり、王であればこそ民を犠牲にして助かるのではなく、民を守るために矢面に立つ決断をした。彼の脳裏には、己が機械の翼を備える前に愛した女の姿があった。
ヴェガでは《勇麗なる神角将 ミレイカ》もまたミノタウロスたちを鼓舞し、最後の戦いに向かっていた。
彼女は戦士であり、角が折れてもまだ己の角に誇りを持っていた。これまで常に戦いの最中にあり、産まれたときから彼女は戦いを見据え続けてきた。愛した男も戦いの中で失い、その敵を戦いの中で討った。これまでもそうであったように、これからも戦いを続けるだけのことだった。
戦いの最中で、建造が続けられていた《精霊砲の轟き》が起こり、加熱し過ぎた砲台は自壊した。邪悪を打ち払うため、さまざまなものが犠牲となっていった。
14-056R《神角将の猛進令》 |
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「偉大なる角と真の勇気を持つ者たち、聞け! 我らが生まれてきたのは今この時のため! 魂の最後の一片までも、怒りの炉にくべよ! 我ら希望を束ね、闇を貫く神話の角とならん!」
~神角将の鼓舞~
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《青還の海覇公 デルナード》もまた遁走ではなく戦いの道を選択した――彼の場合は、積極的に選んだ道ではなかったけれども。
《救聖女 レティシャ》とともに《海覇の大奮戦》をしていたデルナードではあったが、五魔将を退け、《闇の共闘》から辛うじてレティシャを逃げ延びさせた彼には、もはや黄金船団に向かうだけの時間は残されていなかった。
だがこのデルナードという男は、これまでもそうであったように――ああ、ちくしょう――どうしても女神に愛されていた。彼の背後の何もなかったはずの空間から、白く柔らかな子どものように小さな手が伸びた。
14-105U《黄金航路への賭け》 |
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「すまねえ、レティシャ殿! あんたのぶんまで時間は稼いだが、俺はどうやら天国行きの黄金の船には間に合わねえようだ! ん、あの光はいったい……!?」
~女神に愛されし者、デルナード最後の幸運~
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ボディペであった。
背中に故郷
話は少し巻き戻る。
《目覚めし黄金覇者 アルマイル》が黄金の太陽と化して黄金航路を指し示しはしたものの、問題は山積みだった。黄金航路の先に異世界が広がっていることは予想できるものの、それがどんな場所なのか、どれくらいの時間をかければ到達できるのか、レ・ムゥの人々を乗せるだけの船は作れるのか。
そもそも黄金航路は異世界への道である。となれば、ただの船で海を漕いで行けるわけがない。空を飛ばねばならないのだ。
だが誰も彼もがスワントや天使ではないし、竜でもカラスでもない。道があるのはわかったが、それを辿るのは困難だ。であれば、どんな手段も残されていないのと同じではないか?
そんな議論が交わされる中で少女は戻って来た。当初の予定を考えれば明らかに間に合ってはいないものの、世界の危機を一度救った、双剣の勇者を連れて。
《秘使者の帰還術》で述べられている「希望」というのは《聖求の勇者 セレネカ》と《魔血の破戒騎士 ゼスタール》(こいつらなにしに来たの?)のことで間違いないだろう。
では、「光の英知」とはいったいなんのことか?
@buri_kino えっちのことだよ。— ゴトーアイスラ (@Not_Shact) 2017年1月28日
違う。
《蒼空の聖知》のフレーバーでは、その「英知」が天翔ける船を作る技術であるということを述べている。天空世界レムリアナは飛行機械のみならず大陸が浮く世界である。であれば、船を浮かすことなど造作もなく、ケーキ一切れのようなものだ。@buri_kino 空飛ぶ船の技術だと思います。ラセーズさんは陽光3の時点で着工はしてたみたいですが、蒼空の聖知をみたところ最終的にはあの二人の船がなければ脱出挺も作れなかったようにみれます。— 蒼革白菜 椎太 (@theta1121) 2017年1月28日
だがその世界から連れてきたのが、片やパン屋、片やチョロい色ボケであれば、その技術を伝来させるのに足るとは言い難い。
《蒼空の聖知》のイラストには中央に《神船工匠 ラセーズ》が描かれており、彼女は緑色の謎の物体を抱えている。
背景にセレネカ及びゼスタールと彼らの船――《聖求の旗艦 メルアンタ》と《魔導戦艦 ゼスタナス》――が描かれているが、ボディペられてきたのは人間ふたりだけなので、この船は緑色の物体から連想されるものなのだろう。すなわち、船を浮かせる技術はこの球体の中に込められていたのだ。
— ゴトーアイスラ (@Not_Shact) 2017年1月28日
この緑色の物体がどこから発生したものなのか――それはかつてセゴナが残した最後の遺産だったのかもしれない。《大翼神像 セゴナ・レムリアス》は欠如した精霊力を補填するために破壊されはしたが、内部にはその機構がいくらか残っていて、ふたりの勇者はそれを持ち帰っていたのかもしれない。
由来がなんであれ、技術は確保できた。そして着工が始まったのだ。それまでに見たことがないほどの大規模な建設工事が。これをリベラルと言わずになんと言えよう。
かくして完成した黄金船団は稼働し、デルナード、レティシャ、ボディペ、アメリア、ヴェクター、そして異界のふたりの勇者などを乗せた黄金船団は《南海鳥の大王 エルハロイ》の治める南海島を経由し、黄金太陽が指し示す黄金航路を目指す。
14-081S《救聖女 レティシャ》 |
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感じる……父様が恐れ、私から分かち隔てた邪悪なる魂の半身が近づくのを……! 探さねば……母様から受け継いだ魔の力、その凝縮たる”彼女”を受け止め、浄化するすべを……!
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その船団を追う――漆黒の影があった。
《麗獄の魔闘士 メニズマ》は何かに引き寄せられるような力を感じながら、黄金船団のうちの一隻を追っていた。彼女は知らない。その船に乗っている自分と瓜二つの女が、かつて《魂換術の大魔道 ヴェクター》の邪法によって分け断たれた半身だということを。己がその分割した魂に《魔魂置換の呪法》を受けて作られた存在であるということを。
14-103U《聖魔魂の融合回帰》 |
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「父・ヴェクターによって分かたれたし、我が魂の邪悪なる片翼よ! 今こそ、かつてのように一つに……!」
「ああ、心が、体が何かに満ち溢れて……! ああ、真の魂の救済とはこのことなの……!?」
~メニズマの最後~
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《青還の海覇公 デルナード》から力を吸収するとともにその力を持ってあらゆる魔を風靡させていた《メニズマ》であったが、《レティシャ》の力によってあっけなく敗北。おっぱいを押し付け合いながら《聖魔魂の融合回帰》によって吸収融合され、平穏を取り戻した黄金船団は黄金航路へと漕ぎ出した。
剣鬼喇嘛仏
こうしてレ・ムゥでの激動の戦いは幕を閉じた。
ところで、我々が知るところではアトランティカへ向かった《滅史の災魂 ゴズ・オム》はアトランティカの交魂の英雄たちによって撃退されている。完全に死滅したのかどうかまでは語られてはいないものの、いちおうの決着は、《滅史の災魂》の敗北という形でついているわけである。
しかしもしアトランティカという場所が天然に存在した場所で、その英雄たちの力も何に支えられるものでもないのだとすれば、黄金航路を目指した者たちの行いは何の意味もないことになってしまう。それは物語の作りから考えればありえないことだろう。目的を持って立ち上がったものがいれば、その辛苦の旅の末には何かしらの見返りがあるはずなのだ。努力には必ず結果が返ってくる。それが望んだものかどうかはまた別だけれど。
改めて考えてみると、アトランティカで《滅史の災魂》に打ち勝てた理由は交魂英雄の存在に集約される。アトランティカではそれまでも交魂能力を持つ者は存在してはいたが、ごくごく一部に過ぎなかった。
マルチソウルのユニットは天空世界や陽光世界にも存在したが、彼らは「交魂英雄」と呼ばれることはなかった。あくまで幾つかの土地を渡り歩いたり、協力関係にあっただけの存在で、むしろ第二弾の同盟兵に近い。
アトランティカのマルチソウルユニットでも、《タグ育ちのオーク》や《白狼にまたがるノーム》などはやはり土地を渡り歩いたり協力関係によって生まれたような存在ではあるが、交魂英雄となるとある種別格の力を持って迎えられる。代表的なのが、異世界の災害を最初に読み取った《予兆の姫巫女 イルミナ》、死門を開いた《傭兵女帝 ベルスネ》、そしてそのへんの小僧に風雷拳を教えた《風雷拳士 ファルトー》である。
彼らがいなければアトランティカは敗北していた。いや、ひとりはいらなかったかな。まぁいいや。
アトランティカでは交魂英雄は特別な存在だが、一方で天空世界や陽光世界において、「交魂」という言葉が出てきたことはない――たったひとつの例外を除いて。
14-103U《聖魔魂の融合回帰》 |
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「父・ヴェクターによって分かたれたし、我が魂の邪悪なる片翼よ! 今こそ、かつてのように一つに……!」
「ああ、心が、体が何かに満ち溢れて……! ああ、真の魂の救済とはこのことなの……!?」
~メニズマの最後~
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《聖魔魂の融合回帰》は天空・陽光世界で唯一【交魂術】というカテゴリを持つカードであり、これまでそのカテゴリにあったのは《ファルトー》の《風雷拳の極意》、《メニズマ》が用いる《女帝の呪雷》に代表される第四弾のマルチスペルのみであった。
すなわち、それらと同等ともいえる能力を備えた《レティシャ》+《メニズマ》=レティズマ(もしくはメニシャ)は、もはや交魂の英雄といっても差し支えない。
《レティシャ》のフレーバーでは「父様が恐れ、私から分かち隔てた邪悪なる魂の半身」と述べられているので、彼女にはそもそも交魂能力に近い力(ヴェクターが恐れて隠すほどの力)が備わっていたのだろう。
いまや痴女と化した《レティシャ》のみが、現段階では黄金船団に乗る唯一の交魂の英雄である。彼女の存在こそがのちのアトランティカで《滅史の災魂》を倒す一助となったことは間違いない。
であれば第4弾時点では《滅史の災魂》のクロノグリフ改竄による余波であろうと予想されていた交魂英雄の出現の影には、黄金船団による活躍があったのだろう。黄金船団はついに異世界に辿り着き、クロノグリフへの干渉に成功したに違いないのだ。
君がため
大元のストーリーを語ったところで、残されている謎に向かう。
現状残されている最も大きな謎は「アトランティカやロジカとは何なのか」というものだが、もしかするとアトランティカが《ゴズ・オム》をおびき寄せるために未来で作られた大陸かもしれないし、そうではなくもともと存在していた大陸かもしれない。ロジカは陽光人や天空人の生き残りかもしれないし、第四の勢力かもしれない。現段階の情報だけではそれを語ることはできない。
だがアトランティカに存在するとある人物が明らかに陽光・天空世界と繋がりを示唆されていれば、その人物に関してのみは想像以上の推理をすることができる。
〈黒の覇王〉。
ただの一傭兵から成り上がったこの人物について、陽光1では彼の正体を《黒覇帝 ゴルディオーザ》ではないかと推理した。これはふたりのどちらのそばにもいた女、《ベリス・べレナ》と《ヴァイヤ》のフレーバーの共通性や〈黒(の)覇王(帝)〉という二つ名の共通性から予想したものだった。
陽光2-3ではゴルディオーザがのちの《ゴズ・オム》ではないかと予想されたことから、禁呪によって《メニズマ》や《レティシャ》のようにゴルディオーザも分化したのではないかという予想も挙げた。
では陽光編の締めくくりとなる陽光4ではどう予想するか。
ここまでの話を読み返してみると「〈黒の覇王〉は《黒覇帝 ゴルディオーザ》とは赤の他人である」と結論づけるべきであろう。なぜならば、《ゴルディオーザ》は《滅史の災魂》になってしまったし、その過程で特に分化も何もなかったからだ。
だが〈黒の覇王〉が《黒覇帝》と無関係かというと、それはまた別問題だ。〈黒の覇王〉は《ゴルディオーザ》など知らぬ存ぜぬだったかもしれない、関係させられた可能性はあるのだ。
まず〈黒の覇王〉を語る前に語らなければならないフレーバーがある。
それは《悲哀の果て》である。
14-074U《悲哀の果て》 |
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「永遠を失い、全てを得た、か……。ディアーネよ、俺はもう憂いも嘆きもせぬ。これから俺が……余が征く道は、完全なる超越者の道。心はおろか、尊き面影すらも不要なのだから。」
~黒覇帝の独白~
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イラストで描かれているのは《ゴズ・オム》と化す以前の《ゴルディオーザ》であろうが、抱かれている人物は誰だろうか? 髪が菫色だ。では《血薔薇の吸血姫 ミリザ》か? いや、フレーバーではディアーネの名を挙げており、この状況で抱いている女以外の名を呼んでいたらゴルさんである。ゴルディオーザはゴルさんだが、そこまで空気が読めないと考えたくはない。
であれば、イラストで描かれているのは《ゴルディオーザ》と《ディアーネ》であると考えるべきであろう。
だがこの女性がディアーネであると考えるには大きな問題がある。それは髪の色である。
イラストを比較すればわかるように、もともとのディアーネの髪の色は銀色かせいぜい紅藤色程度の薄紫色であった。だが《悲哀の果て》の髪色は、明らかにそれより濃く、躑躅色だの牡丹色などと表現される深い桃~紫色となっている。
なぜこうも色が違うのか? 下にある花の色が反射しているのか? だが花の色は紫だけではなく、青などもある。こちらの色は髪色には反映されていない。
美少女先生(滝)が発注を間違えたのか? いや、他のキャラクターならまだしも、ディアーネは相応に重要な人物であり、クロノレアも存在するとなればそうそう間違えるものではないだろう。
イラストレーターが間違えたのか? しかし既に2パターン存在するキャラクターであるし、完成後に校正も入るだろう。納期の問題を追及するのはナンセンスだ。
もっと素直に考えるべきだ。《ディアーネ》の髪の色が変わっていたのなら、変わったと考えるべきのだ。
おそらくは黒覇帝の実験によって、変化したのだろう。実験に伴うこうした変化は、《血薔薇の吸血姫 ミリザ》という登場人物が証明しているが、彼女については恒例の間違いを孕みつつも絶賛発売中ラストクロニクル陽光編4(浅原・橙紫マルチの解説がおかしいぞ・晃 著)を参照されたい。彼女と同種の実験を受けたのであれば、《ディアーネ》の髪色が《ミリザ》と似たそれになったことも頷けないでもない。
14-063S《血薔薇の吸血姫 ミリザ》 |
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ああ、美しき血薔薇の園! ここで女帝司祭様が私に名を与え、黒覇帝様が不死の命を与えてくださった……ならばこそ、私はこの館の主として永遠の闇の秩序を守りましょう……!
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変わったのはそうした現象として変わったものと考えればよいが、「なぜ」それまでの色から変えたのかとなると考える余地が生まれる。流れに人の力が加わるとき、そこには理由がある。
簡単な話だ。髪色を変えたディアーネが今後――あるいはこれまでに登場する/しているからだ。
ディアーネは死んだ。だが死んだ人間も生き返るというのは(陽光編も決着となったこのタイミングで一切ストーリーに絡むことなく登場した)《蘇りし先代皇帝 ゾルシウス》という前例がある。彼の場合は古い死体だったからかゾンビと化していたが、死んだばかりの死体ならば腐ることなく蘇るかもしれない。あるいは実験の過程で、何らかの力を手にして蘇った可能性もある。
そして髪色を変えて生き返ったディアーネがこれから登場するのではなく――既に登場していたのであれば、その人物は牡丹色の髪を持ち、ゴルディオーザを通してクロノグリフについてある程度把握し、実験によって強大な力を得ることになっているに違いない。
それらの条件を満たす女が、たったひとりだけ存在する。
1-115S《闇の全知者 ヴァイヤ》 |
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「本を閉じると彼女は妖艶に笑い、運命を相手に火遊びをする覚悟があるのか、と聞いた。私は無論うなづいた。やがて魂の代償が支払われると、つややかな唇がそっと蝋燭を吹き消しーー小部屋に闇の帳が下りた。」
~亜神の黒歴書~
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陽光1の時点では「《深冥の魔参謀 ベリス・ベレナ》は《闇の全知者 ヴァイヤ》ではないか」という仮説が挙げられた。ふたりには強い魔力や出自不明であること、軍師という立場もさることながら、フレーバーに共通点があった。
だが厳密にいえば、《べリス・ベレナ》と《ヴァイヤ》のフレーバーは合致していたわけではなかった。また、ふたりは髪の色も瞳の色も違っていた。
11-093S《深冥の魔参謀 ベリス・ベレナ》 |
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「その夜の軍議中、王城のテラスで血の月を眺めながら、彼女はふと妖艶に微笑み『運命を相手に火遊びをする覚悟はおありか?』と黒覇帝に訊ねた。その物言いが、なぜか私には非常に不吉なもののように感じられた……。」
~暗黒史書官の日記より~
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一方で《ディアーネ》はどうだろうか?
彼女は死した際、おそらくはそれまでの《ゴルディオーザ》の実験のためであろう、髪の色は菫色に染まっていた――ヴァイヤと同じだ。
瞳の色は紫色だ――ヴァイヤと同じだ。
《ディアーネ》は実験の過程で高い魔力を得ることになっていたかもしれない――ヴァイヤと同じだ。
《ゴルディオーザ》を通して《ディアーネ》は他のクロノグリフの頁について、ある程度把握したかもしれない――ヴァイヤと同じに。
《ディアーネ》は樹人であり、樹人はエルフなどのように鋭く尖った耳という特徴がある――しかし《ヴァイヤ》は通常版とCR版のいずれでも、その耳は見えない。第1弾当時はマルチカテゴリもなく、ヴァイヤの種族は明記されていないがゆえに、種族の差異は問題にならない。
おっぱいのサイズが違う?――《ヴァイヤ》を描いたのは美和美和である。
11-115S《闇の全知者 ヴァイヤ》 |
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全てが視えるというのも、ときどきうんざりしてしまうの……。でもこの退屈な世界にただひとつ、見透かせないものもあるわ。それは……そう、貴方は分かっているのね。なら、つまらない落ちだと笑うかしら?
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仮に――仮に《ディアーネ》=《ヴァイヤ》としてみよう。
彼女は《ゴルディオーザ》による実験の過程で高い魔力を得、さらに髪色が菫色に変わったとしよう。死し、しかし実験の後遺症で生き返ったとしよう。では、彼女はいったい何を企んでいるのか。
彼女が目覚めたとき、レ・ムゥは荒れ果て、精霊力を失っていた。広がっているのは荒れ果てた大地だけだった。生き物は死に絶え、神樹の力さえも及ばなくなっていた。
そんな最中、何らかの予兆を感じ取った。度重なる神暦改竄術の実験によって、彼女にはクロノグリフの頁の一端を理解する力が身についていたのだ。その予兆を感じた世界の名はアトランティカ――精霊力に護られた4つの強大な国と、1つの荒れ果てた大地によって構成された大陸。
14-106S《狂暦の魔覇者 ゴズ・オム》 |
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創世の言葉にてゴズは「全にして無」、オムは「王」……かくして彼は、永遠の勝利と引き換えに、尽きせぬ力への渇望を手に入れた。そしていつの日かその狂気の瞳は、次元の裂け目から宝種の精霊力を浴び、異世界にて育った若木を見つけ……
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《狂暦の魔覇者》がその存在に気付くのは「いつの日か」であり、レ・ムゥでの虐殺の直後ではない。ゆえに彼女は先んじてその場所へ辿り着くことができた。世界を知り、問題を知った。戦力が足りない。大陸を纏める者がいない。このままではアトランティカという場所も、レ・ムゥの二の舞いになると。
ゆえに彼女は精霊力に見放された荒れ果てた大地出身の、とある傭兵に接近した。粗暴で、礼儀を知らず、しかし人々を強く惹きつけ、強い力を持つ、尊大な傭兵に。女の狙いは過去の男に対抗することだった。実験の過程で強大な力を得たとて、それは単独の力であり、必要なのは大陸が一丸となって災害に対応することだったのだ。
12-033S《夜露の神樹姫 ディアーネ》 |
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ゴルディオーザ、あなたは哀しい人……愛の言葉を重ね、金銀財宝をいくら積んで尽くされようとも……私には、あの輝ける赤陽の大地が恋しいのです。いずれ知るでしょう……力だけでは、奪えぬものがあると。
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女はかつて一時身を置いた場所にいた女軍師の真似をして傭兵を唆し、国造りを助けた。そして彼にこう名乗らせた。〈黒の覇王〉と。一時だけでも愛され、もしかすると自分でも気付かぬうちに愛したかもしれない男の二つ名を。
〈黒の覇王〉という二つ名は、いずれ訪れる敵への宣戦布告だ。かつて言ってやったことをその身に教えてやらなければならなかったのだ。力だけでは、奪えぬものがあると。
〈黒の覇王〉は彼女の期待に応えた。精霊力の後ろ盾なしに他の四大国と比肩するほどの国を打ち立てた。尖兵として送り込まれてきた災害獣を打ち払った。何もかもが上手く行っていた。彼女がその存在を知らなかった、第三の堕魂の破片がバストリアを訪れるまでは。
男の傷は消え、女に送られた花は既に枯れた。雨のあとに何を見るかは次弾以降に紡がれる。
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