展覧会/『War of Brains』/1-3弾ストーリー&フレーバー解読(中編)
- 目次
- 序曲(前編)
- 文化学ー龍と神々の歌ー(前編)
- 生物学ー獣たちの午後の歌ー(前編)
- 機械工学ー正義の歌ー
- 医学ー華の歌ー
- 化学―朝と夜の歌―(後編)
- 終曲(後編)
機械工学はLAPISとTAOSINに跨っているが、その世界設定は随分と異なるように見える。
LAPISの機械たちはほとんど人間並に自我を持っているように見える一方、TAOSIN世界の機械はあくまで兵器の延長でしかない。
ふたつの機械工学世界で共通しているのは、この世界には文化学世界のようなドラゴンや神々がおらず、生物学世界のような獣やキメラもいないということ。基本的に人間と機械で構成されている。
TAOSINの機械工学世界は戦乱の世界である。常に戦火が各地で巻き起こっており、そこでは『鉄機』と呼ばれる機械兵器が活躍している。これは主に《災いの創造士 悟浄》とその一族が作成したものである。
《悟浄》という男は地下深くに隠れ住む得体の知れない人物であるが、あるとき戦場で赤子を拾い上げた。のちに《災いの技師 八戒》と呼ばれることになる男の子を育てながら、《悟浄》は鉄機を作り、戦場に売り捌いた。
地を荒らすTAOSINに対し、LAPIS側は天からの襲来を受けていた。
破断という語はあまり日常的には使わない言葉だが、基本的に金属に亀裂が入り、断ち切れることと考えればよい。
《鬼神重装 八重》(ギャラックではない)を中心とした星を守るための機械工学世界警備隊にとって、彼女はまさしく破断をもたらす存在であった。
宇宙から突如――何の目的意識もなしに襲来した《破断のカオスクイーン》は機械工学世界を攻撃し始めた。
相手は星渡りの機械である。星を守る警備隊たちは《撒火重機 フレア・ビーツ》や《夜露四苦 バッド・ジョー》などの強大な兵器生物の前に次々と撃破されていく。
ところで、惑星警備隊には《キャプテン・ギャラック》という男(機械)がいた。彼はリーダーを自称し、他人(ロボ)をこき下ろし、僻み、妬み、貶すのが日常的な人物で、当たり前だが周囲からは嫌われていた。彼は言う、あれはリーダーの資質がない、リーダーに向いていない、だから自分がリーダーだ、と。
彼の言うリーダーの資質とは何か?
《キャプテン ギャラック》の自爆特攻ともいえる攻撃、サテライト・ビームによって《破断のカオスクイーン》を迎撃、惑星警備隊たちは危機を脱する。
だがこの攻撃によって僅かながらも《破断のカオスクイーン》を傷つけてしまったことが、最悪のシナリオへの引き金となった。
それまで半ば遊びのように手加減しながら戦っていた《破断のカオスクイーン》は《メテオ・シュート》を発動。隕石によって仲間ごと――いや、配下ごとこの星を破壊することを決断した。
《破断のカオスクイーン》の乗る母船から吐き出される《メテオシュート》の発動までが秒読みとなった段階で、《鬼神演舞 八重ノ風》は母船を破壊するために空に向けて駆けていた。
勝算があるわけではなかった。だが希望がないわけでもなかった。
《破断のカオスクイーン》の軍勢であったうちのひとり、《臆病機兵 クロベエ》は彼女の暴虐に耐えかね、またこの星の生物に触れて共生を決意し、《八重》に母船を破壊するための機構を伝えていた。
《剛槍機 ライデン》や《光機 シャム・スー》の援護を受け、《八重》は翔んだ。母船の外殻を破壊し、切り返す刀で母船内部へと侵入。母船の機関を破壊して《メテオ・シュート》をすんでのところで食い止めた。
だが、既にそこに《破断のカオスクイーン》の姿はなかった。
逃亡した《破断のカオスクイーン》が次なる災害を引き起こしうるかもしれない――が、ひとまずその脅威は去った。多大な被害を出しながら、宇宙からの襲撃を防ぎきった。
といったところで決着するとして、はて問題なのは、このふたつの機械工学世界がどのようにつながっていくか、である。
ひとつの可能性としては次なる《ハロー・グッバイ》で述べられている《破断のカオスクイーン》の次なる襲撃先が《悟浄》たちの機械工学世界になる可能性である。
もうひとつの可能性は、このふたつの世界が生物学世界と同様に時空を越えて繋がっている可能性である。ふたつの世界を繋ぐかもしれない存在が《災いの始祖 悟空》だ。
「この若造が……歯ぁ食い縛れぇ!」
機械兵器『鉄式』によって機械工学世界を裏から牛耳り、事実上世界を支配している《悟浄》を突如として現れた《悟空》は殴りつけた。だが《悟浄》の師であった彼は――おそらくは弟子である《悟浄》の手によって――彼らの機械工学世とは異なる時空に飛ばされていたはずなのだ。
彼は生還した。時空を操る鉄式を完成させて。
ではその〈時空を操る鉄式〉とは何か? そして如何様にしてそれを完成させたのか?
ところで《悟空》、《悟浄》、《八戒》といえば中国四大怪奇小説の『西遊記』である。『西遊記』は三蔵法師(玄奘)が正しき経典を持ち帰るために天竺に向かう物語だが、それに同行する孫悟空らは罪人(妖怪)であり、三蔵法師と天竺へ同行するのは彼ら自身に目的があるというよりも、罪の償いのためであるといってもよい。
戦乱に乗じて鉄式を作り金儲けをはたらく《悟浄》は言うまでもなく罪人だが、それに鉄式を教えた《悟空》もある意味では罪人だろう。だが彼は時空を超えて蘇り、《悟浄》と対決する。それはこれまでの罪を贖う行為である。
であれば、彼が〈時空を操る鉄式〉を完成させて《悟浄》の元へと舞い戻ることができた背景には〈三蔵法師〉としての役割を持つ人物がいるのかもしれない――そしてそれはTAOSINではなく、LAPIS機械工学世界の者かもしれない。
それは《八重》か《カオスクイーン》か、はたまた未だ登場していない人物なのかーー真相は未だ闇の中である。
医学世界もまた、ふたつの世界線は直接的に繋がっているのかどうかわかりにくい世界観である。
SHEDOの医学世界で特徴的なのは、こちらの世界では《魔法結界のフローラ》や《プロテクション》など、明らかに魔法めいた力が存在するのみならず、《華の妖精 ポポリ》や《愛の妖精 プリマイン》、《ショットちゃん》といった妖精が当たり前のように存在している点である。
ということは、SHEDOの医学世界は(明らかに滅茶苦茶な人間や合成生物、超常的ともいえる能力は存在してはいるが)明らかに「魔法」と断定できるような力がほとんど見えないMAGNA医学世界とはまた別の世界なのだろうか?
いや、MAGNA医学世界にも明らかに人間ではなく、魔法の力を行使する存在がひとりだけいる。それは《堕天使 ジェノア》だ。
天使はニュートラルなら《反乱医 ロゼッタ》などがいるが、《ジェノア》は明らかにMAGNA医学世界に分類された存在であり、このことからMAGNA医学世界は決して人間たちだけの世界だけではなく、天使や堕天使といった魔法の力が介入しうる世界であるということだろう――すなわち、SHEDO医学世界とほとんど同一であり、おそらくは他の四学問世界と比較すると、もっとも他国家世界との距離が近い世界だといえるだろう。
医学世界のとある巨大病院では闘争が勃発していた。その戦いの中心にいたのは、三人の女――否、悪女。
《悪女 アラディア》は医学による世界征服のため、異母弟を《傀儡医 マイロ》として仕立て上げ、資金集めを始めていた。
もともとこの病院は人知れず違法な改造出術を行う恐ろしい場所であった。であれば、医師も、看護師も、何もかもがまともではない。金によって簡単に支配が可能であり、金さえあれば武器も人員もいくらでも手に入った。
だが金ではどうにもならないものもこの世には存在する。
《輝く非道 アンジェリカ》には特段の思想はない。だが《アラディア》が目の前でのし上がろうとしていることそのものが単に腹が立った。
彼女は最も単純な力――暴力で《アラディア》に対抗することにした。
そしてもうひとり。
《腐敗正義 ディアマンテ》は警察署長である。
彼女にどんな理念があるのかは定かではない。だが彼女は《アラディア》や《アンジェリカ》の横行を見逃すつもりはなかった。
こうして《アラディア》、《アンジェリカ》、《ディアマンテ》の三人の悪女による三つ巴の闘争が始まった。
ところで、女性といえば華である。
MAGNA医学世界から距離を離れた――しかしおそらくは時間的にはそう違わないSHEDO医学世界の中心となるのは〈死地の華〉と呼ばれる組織(あるいは国家)である。《華の女神 ヴェーダ》を信奉するこの組織は「聖都」と呼ばれる都市を首都とした医学集団のようである。おそらくは、戦火に逃げ惑う民衆を救済するための国境なき医師団のような組織だったのだろう。
その二大幹部に、ふたりの若き女性がいた。
ひとりは《華の聖導 シェーラ》。
そしてもうひとりは《華の聖賢 アン・サリヴァン》。
ふたりの最終的な目的地は一致していた。すなわち、戦争をなくすこと。争いを止めること。
だがふたりの手段は真逆だった。
度重なる戦火の中、《アン・サリヴァン》は医学を戦争で逃げ惑う人々を癒やすのではなく、逆に力によって戦争を終わらせるために医術を利用することを決意。若くして〈聖都〉の女王として就任する。
一方で、あくまで医学は人を守るために使うべきであり、自ら戦うべきではないという《ヴェーダ》の思想に殉じ続けた《シェーラ》は《アン・サリヴァン》と袂を分かち、〈死地の華〉を離反する。
孤独になった《アン・サリヴァン》の王としての戦いは、一見すると順調に見えた。彼女に率いられた〈死地の華〉はその医学力によって戦を終わらせようとしていた。
だが戦に夢中になっている間に、その陰で蠢く存在があった。
「お待たせ。消えて?」
〈死地の華〉の幹部がひとりである《ジェリス》――否、《白界王 シン・ジェリス》はクーデタを開始。入念な準備と周到な手管によって《アン・サリヴァン》を蹴落とし、〈聖都〉の新たな王として就任する。
平穏になりかけた地に争いをもたらさんとする《シン・ジェリス》。彼女はまるで、《堕天使 ジェノア》のようだ。ふたりの名前がどちらも「ジェ」で始まっているのは単なる偶然なのだろうか? あるいは彼女もまた、人間ではない存在なのかもしれない。
悪の意思に完全に掌握されそうになった〈死地の華〉だったが、彼女が正体を現す以前から《シン・ジェリス》を警戒し続けた者がいた。
不意をついた《大器晩成医 アンズ》の一撃は《シン・ジェリス》の撃退に成功した――かに思えた。だが致命傷を受ける前に《シン・ジェリス》は逃走。〈死地の華〉の実権を取り戻すことは失敗したかに思えた。
だが《シン・ジェリス》の存在に感づいていたのは《アンズ》だけではなかった。《華の暗部 アマリス》や《華の女傑 ベル・クラウト》ら、闇に生きる者たちは同じ闇の匂いを嗅ぎ分け、既に包囲網を敷いていた。華が華として生きるために彼らは動き出す。
ところで《シン・ジェリス》は悪女である。悪女であろう。悪女に違いない。
であればMAGNA世界の三人の悪女に肩を並べうる――彼女が人間よりも高位な存在であったとしても、「力」によって世界を牛耳ろうという点は三悪女と酷似している。であれば、〈死地の華〉での戦いの結果が如何にあろうとも、SHEDO医学世界の《シン・ジェリス》がMAGNA医学世界の《悪女 アラディア》たちと雌雄を決する日が来るかもしれない。
あるいは逆に、彼女ら三悪女が力を合わせれば――正体不明の存在である《シン・ジェリス》にも勝ちうるかもしれない。
そしてもうひとり。
《シン・ジェリス》の暗謀によって襲撃を受けた《アン・サリヴァン》は友でありながら袂を分かった《華の聖導 シェーラ》の術技を用いて、危機を脱していた。
《アン・サリヴァン》は〈悪女〉を名乗るには、あまりに真摯であり、向こう見ずであり、計画性がない。しかしながら、平和のための決意で医学を用い、戦争をなくそうとしたことは事実である。彼女は正義の立場にいるためにそうは見えないが、《アン・サリヴァン》の最終的な目標は争いのない世界であり、世界征服はそのための手段となりうる。であれば、決意をしながらもそれが敗れた《アン・サリヴァン》が〈悪女〉たちとの戦いに身を乗り出すこともありうるのかもしれない。
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